美しい風景、美しい心の人々、美しいダンス……美しさがあふれる芸術イベントです
(写真提供:台灣好基金會/攝影:劉振祥)
こんにちは、台北ナビです。
台湾一おいしいお米が栽培される場所として知られる台東県池上郷で、毎年秋に開かれるイベントがあります。それは、台灣好基金會や臺東縣池上鄉文化藝術協會が主催する芸術イベント「池上秋收稻穗藝術節」です。
毎年、黄金色に輝く稲田に即席の舞台が設置され、雄大な自然の中で台湾初のダンスカンパニーである雲門舞集らがダンスパフォーマンスを行うもので、これまでにも複数回お邪魔してきたナビは、今年もしっかりと観賞してきました。屋内の劇場ではなかなか味わえない感動を皆さんにお伝えします!
米どころ池上の魅力を再認識できる恒例行事です
今でこそ毎年多くの観光客が訪れる人気スポットの池上ですが、10年前はまさに田舎でした。台東県自体に映画館すらなく、そもそも芸術に親しむということがないという有様だったと、池上で育った人は話します。
そんな中で始まったのがこの芸術祭。始めは地元の人の誰もが「一体田んぼのど真ん中で何をしているんだ」と思ったらしいのですが、毎年続けられるうちに、次第に興味がわき、この日を待ち望む人たちが増えてきたそう。
今では池上中学校の生徒150人を含む地元住民250人がボランティアとなってイベントを支えるように。台北から最速の特急列車でも3時間弱かかって到達するこの場所で、国際的に評価の高い芸術に触れられる機会であるばかりか、多くの人が集まることで町興しに繋がるなど、池上に大きな活力を与えるイベントになっています。
芸術祭は今年で10年目。しかも雲門舞集にとっても創設45周年になり、ダブルでの節目となりました。8月23日に観賞チケットの販売が開始されると、瞬く間に完売。注目の高さをうかがわせました。
町全体が芸術の息吹に包まれていました
芸術施設「池上穀倉藝術館」。築60年近く経った古い建物に見えません
さて、会場に行く前に、池上駅から程近い場所にある芸術施設「池上穀倉藝術館」にお邪魔しました。台灣好基金會が運営する文化施設で、池上に長期滞在して芸術活動を行うアーティストの作品が展示されています。
劉振祥氏
ちょうどナビ一行が訪れた時に開催されていたのは、30年近くにわたり雲門舞集を撮り続けている台湾人フォトグラファー劉振祥氏の写真展「雲門風景」。池上での公演を含む、雲門舞集の姿が、克明に映し出されていましたよ。
林懐民プロデューサー
また、公演前に行われた記者会見では、林懐民プロデューサーが「池上は、雲門のダンサーがあこがれる舞台。世界中でパフォーマンスを繰り広げる彼らが最も踊りたいと思う場所は池上」と語り、地元の人たちとの交流しながら一緒に舞台を作り上げることの意義は大きいと語りました。
さぁ、会場に向かいましょう!チケットの確認や物品の販売、座席の案内など、ここで活躍するのが池上中学校の生徒たち。大きな芸術祭を支えながら芸術を鑑賞することで、自分自身や地元に対して自信や誇りが芽生えるようになるんだとか。
気温は20度でしたが冷たい風が強く吹きつけ、体感温度はそれ以下の寒さ。観客の中にはダウンジャケットを着込む人もいましたが、中学生ボランティアは元気いっぱい!彼らが迎えてくれると、不思議とこちらまで元気がわいてきます。
会場 稲田に広~い舞台が登場しています
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土手に設けられた観客席は約2500人が観賞可能
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始めはプユマ号事故の犠牲者に黙祷
いよいよ待ちに待った公演時間となりました。雲門舞集の林懐民プロデューサーが舞台上に現れて挨拶となったのですが、今年は少し事情が違いました。
日本でも多くの報道がなされたためにご存知の方も多いと思いますが、芸術節に先立つ10月21日、台湾宜蘭県で台東行きの特急プユマ号が脱線、横転し、多数の死傷者を出す大惨事が起きてしまったのです。犠牲者や負傷者の多くは台東をはじめとする東部の人たちで、今回のイベントに携わった人の中には、少なからず親しい人が被害に逢い、心に傷を負った人もいました。この日はちょうど初七日となったため、全員で黙祷を捧げました。
圧巻のパフォーマンス
人、風景、音、色、感じ取るものがたくさんあります
白い衣装を着た女性たちによるダンスから始まりました。ゆっくりとした動きなのですが、日常生活では絶対にしないであろう体勢をとりながら、それを維持し、ほかのダンサーと協調する動きは、ダンスに明るくないナビでも驚くばかり。
しかも、現場で流れる音楽がリズムを刻むものではないのにも関わらず、バラバラの動きをしていたそれぞれが急に同じ動きをしたり、そしてまた同じタイミングでバラバラの動きに戻ったりと、一体どういう仕組みになっているのか素人目には全く分からないパフォーマンスが目の前で繰り広げられるんです。
通路を歩く男性陣の姿も美しい
続いて黒い衣装をまとった男性陣が登場。寒空の下にも関わらず、ダンサーさんは皆さん薄着のため、体のラインが非常によく分かります。女性の柔らかさと比較して、力強さを感じる男性は、動きも大きく見え、広々とした大地にぽつんとできた舞台の上でも、圧倒的な存在感を放っていました。
最初にも言及しましたが、今回上演された作品のタイトルは「松煙」。中国文化と非常に深いつながりを持つ「墨」のことですね。そのため、舞台上にあるのは、黒と白、そして人の肌の色。それぞれのコントラストが非常に美しく感じられます。ふと視野を広げると見えるのは、波打つ黄色の稲、緑の山、青みがかったグレーの曇り空と、鮮やかな色彩を帯びた大自然。そして曇り空から差し込む太陽の光。絶えず風に吹かれてなびく衣装は、黒なら紙ににじむ墨、白なら松を燃やしたときに出る煙……色々と想像力をかきたてられるパフォーマンスの連続でした。
黒と白のコントラストが素敵です
公演は70分。さすがに後半になると観客としてみているこちらはあまりの寒さに凍えてきたのですが、舞台上のダンサーは薄着なのにも関わらず、疲れた表情を見せることなく、淡々と踊りを続けるばかりか、大きく、激しさを増します。
緻密に計算され、たゆまぬ訓練が続けられた結晶ですね
そして最後、舞台上にいたダンサーがはけ、戻った静寂。すると観客は総立ちになり、惜しみない盛大な拍手が送られました。
林懐民プロデューサーも満足げな表情。今回の衣装は少々ゆとりのあるデザインだったので、踊っているうちに足に引っかかり、転倒するリスクが多かったようなのですが、この日の公演での転倒者はゼロ。「完璧に近いパフォーマンスだった」と太鼓判を押しました。
池上の稲田にできた舞台で行われたダンスパフォーマンス。一見ミスマッチな組み合わせに見えますが、室内の劇場で観賞するパフォーマンスと比べ、人と風景が一体となる芸術作品というのは、爽快感があり、なかなか見られるものではないと感じます。
稲田が広がる池上だからこそできる毎年1度のパフォーマンス。みなさんも驚きと興奮が連続するこの舞台を見に来てくださいね。
以上台北ナビがお伝えしました。
動画でも世界的なダンスカンパニーによる洗練されたダンスをご覧ください
上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。
記事登録日:2018-11-12