「どうして池上?」そんな疑問が生まれますが、昔から農閑期になると農民たちは絵画や書道といった文化活動を熱心に行なってきた土地柄なんだとか。そんな下地の上に始動したのが地方創生プロジェクト「アーティスト・イン・レジデンス」でした。
プロジェクトの中心人物は、池上の美しさに惚れ込んだという「台灣好基金會(台湾好基金会)」の柯文昌董事長。
常々母親から「儲けたお金は他人のために施しなさい。ただ金品を寄付するだけではなく施すことが重要」と釘を刺されてきたのだとか。母親亡き後、その言い付けを守るように設立したのがこの基金会でした。始まりは2009年、ここ池上だったのだそう。
きっと日本のみなさんには、中山エリアにかつてあった台湾各地の「好(いいもの)」を集めたセレクトショップ『台湾好店』の運営元、といった方がわかるかもしれません。残念ながら、中山のお店はクローズしてしまいましたが、異なる形で今も台湾の「好」を発信し続けているのです。
さて、池上芸術村アーティスト・イン・レジデンスですが、2015年池上郷の萬安村と大埔村に、古民家をリノベーションしてオープンしました。それから7年ほど経った現在までに、さまざまな年代や国籍のアーティストたち27名を招聘。彼らはこの地で豊かな自然や心温かな人と出逢い、油絵・水彩画・水墨画・版画・テクスチャーアート・写真・映像など、各種芸術作品を生み出してきました。
そんな彼らの作品を一堂に会した展示「寄情與召喚一池上藝術村駐村藝術家聯展(ラブコールー池上芸術村アーティスト・イン・レジデンス合同展)」が、「池上穀倉藝術館」で開催されています。
コロナ禍のため、2か月遅れになってしまった開会イベントですが、ナビもおじゃましてきましたよー!
池上で生まれ育ったという劉永仁さんは、2021年にレジデンスへ。油絵《通透・呼吸》(写真左)は、まあるいキャンバスが心を丸くしてくれるだけでなく、オレンジイエローが見る人の心に元気を与えてくれる作品です。劉永仁さんは今回、キュレーターとしても活躍しています。
まあるいキャンバスの作品、Tシャツとかにしたら良さそう!と商売人魂が出て、じっくり鑑賞してしました。笑
范思琪さんの作品は、紙とボールペンという身近にある素材だけで制作されています。
深い青色のボールペンが作り出す世界観に思わず引き込まれてしまいそう!
范思琪《謝謝你都在》/2020年/原子筆、紙/26x36cm
《Breathe-wave-海》と《Breathe-wave-山》は、池上の山と台東の海を感じさせてくれる李屏宜さんによる版画です。池上に来たのはコロナウィルスが猛威を振るい始めた2020年という李さん。当時は自分の内と深く向き合ったと言います。そうそう、あの頃はステイホームが叫ばれ、多くの人がおこもりの日々を過ごしていましたよねー。そんな日々の中、台東で見た景色が作品に色を与えてくれたのだとか。
(右)李屏宜《Breathe-wave-山》/2020年/油墨、Fabriano版畫紙/60x90cm
(左)李屏宜《Breathe-wave-海》/2020年/油墨、Fabriano版畫紙/60x90cm
こちらは同じく李さんが、池上に来る前に手掛けた作品です。制作年も同じ2020年、画材も手法も変わらずですが、全く別人の作品に見えませんか?「池上での暮らしがこんなにも作品に変化をもたらしてくれた」とご本人もビックリ。(ガラスの反射でよく見えずごめんなさい……) |
張宏彬さんの作品《風景標本》は窓枠の十字を境に、左と右では異なる世界を表現しています。どちらも植物が描かれているのに、標本化した左に対し、イキイキと描かれた右の風景……その対比にみなさんは何を思いますか?
左上に1枚の葉っぱが額に入っているのが見えますか?これは池上に滞在する1年前に亡くなったお父様を表しているのだとか。絵の名前のように標本になったのですね!そして、その近くには全体を俯瞰しているような小さな魚が描かれています。つまり、絵の中で父と子が集っているというわけ。説明を聞くまで全然気づかなかった~!張宏彬さんの絵にはこういうちょっとしたサプライズが散りばめられているそう。じっくり見てみて探しだしてくださいね!
張宏彬《風景標本》/2020年/水彩/102x155cm
吳曉菁さんの作品は池上で出逢った風景や身近なものが、墨や箔、壯紙といったアジア由来の材料で制作されています。池上らしい独特の色合いにほっこり♡
すべてに金屬箔が少し使われていて、落ち着いた絵の中に光を表現しています。池上に来た頃は心が疲れていたという吳さんですが、池上で生活することで徐々に心の平穏を取り戻したそう。生活の中で見たささやかな光を描くことで、見る人の心にそっと光を灯してくれているようで、ナビお気に入り~!
吳曉菁《池上行旅-雲山》/2019年/墨、礦物顏料、青貝箔、壯紙/24.3x24.3cm
吳曉菁《池上行旅-蓮霧》/2019年/墨、圖畫顏料、黑箔、壯紙/24.3x24.3cm
吳曉菁《池上行旅-稻穗》/2019年/墨、礦物顏料、洋⾦箔(⻘⼝)、壯紙/24.3x24.3cm
吳曉菁《池上行旅-磁磚》/2019年/墨、礦物顏料、銅箔、壯紙/24.3x24.3cm
よくある景色に浮かび上がる〇や□……さて、ここで問題!みなさんはこの作品はどのようにして作られたと思いますか?
①CGで写真と合成、②風景写真に貼り付けた、③風景に貼り付けた
馬克・尼爾森(Mark Nilsson)さんはアメリカの大学を卒業後、2014年から世界各地を旅してきたそうです。そんな中、縁あって池上にやってきたのだとか。
木版にアクリル絵の具を使ってダイナミックに描かれた《稻米》は、池上に代表的な風景。横長の作品ですが、元々は縦長だったそう。最終的にはこのように仕上がりました!。池上の自然が馬克さんの筆にパワーを与えたのでしょうか。雄大な田園風景が広がります。
馬克·尼爾森(Mark Nilsson)《稻米》/2019年/木板、壓克力顏料/30x55cm
開会イベントでは多くのアーティストが集結し、自身の作品について、また池上での思い出などを語ってくれました。彼らの口々からは、池上の山や田園や人が作品に変化をもたらしてくれたエピソードも飛び出しました。
蔣勳《小暑畫貓》/2021年/水墨紙本/35x56.3cm |
曾建穎《伏虎圖》/2020年/紙本設色、墨、礦物顏料/46.5x75.5cm |
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おもしろいことに、彼らの多くの思い出に住み着いていたのはレジデンスで出逢った猫。さまざまな名前で呼ばれていたニャンコは、彼らにとってかけがいのない存在だったようです。けれど作品の中にはあんまり猫は登場していなかったなぁ……。こちらは作品の中にナビが見つけた猫。 |
上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。
記事登録日:2022-07-19
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