『花甲男孩轉大人(お花畑から来た少年)』強し!!
写真提供:金鐘奨
こんにちは、台北ナビです。
台湾には、「金」を冠した「三金」と呼ばれる娯楽賞があるのをご存じでしょうか。映画の金馬奬、音楽の金曲奬、そしてテレビ・ラジオ番組に与えられる娯楽アワードを「
金鐘奨(ゴールデン・ベル・アワード)」といいます。
金鐘奨は受賞項目があまりにも多いため、授賞式はテレビとラジオそれぞれ別日に行われるのですが、今回は10月6日に行われたテレビ部門の2018年53回金鐘奨リポートをお届けします!
対象作品は「台湾」のみ!
写真提供:金鐘奨
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トロフィーを受け取るのは誰だ!!
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まず、念のため金鐘奨のご説明をさせていただきましょう。「三金」は、台湾のそれぞれの分野で最も権威ある賞なわけですが、金曲奬と金馬奬が中華圏全体の華語作品を対象としており、中国、シンガポール、マレーシア、香港からも例年参加があるのに対し、この金鐘奬だけは「台湾制作であること」が必須なアワードです。そのため、最も台湾らしいカラーが出やすい、台湾ならではの賞といえます!
各賞目は、バラエティー番組賞、ノンフィクション番組賞、ドラマ賞など番組のジャンル別のほか、編集賞、美術賞、撮影賞、照明賞などのテクニカルな分野まで、テレビ部門だけで約40項目にのぼります。それだけ多岐にわたり個人、あるいは作品に対して評価を与える金鐘奬は、視聴者はもちろん業界関係者にも広く期待されている祭典なのです。中でもやはり注目度が一番高いのは、ドラマに関する賞でしょう。特に「最優秀長編ドラマ賞」「最優秀主演女優賞」「最優秀主演男優賞」は毎年トリを飾り、大きく報道されています。
レッドカーペットを彩るゲスト
エンタメアワードは、まず授賞式に出席するゲストが華やかにレッドカーペッドを彩る模様が眼福ですよね。会場となった国父紀念館には、今年もそんなゲストたちを一目見ようというファンがたくさん訪れ沿道を埋めました。
トップバッターを飾った、プレゼンターのビビアン・ドーソン(錦栄)。「筋肉見せて~」というカメラマンのリクエストに、スーツの襟を開いて応えてくれました。
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『台北歌手』で主演男優賞・女優賞にカップルノミネートされている莫子儀(モー・ズーイー)と黃姵嘉(ホワン・ペイジア)は、シックな出で立ちで登場。
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ミニドラマ部門で多数ノミネートの『青苔』キャスト・制作勢。
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往年のアイドル5566(王仁甫、許孟哲、孫協志)は「飢餓遊戲」で司会賞にノミネート。彼らが登場すると大きな歓声が!
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バラエティー部門でノミネート多数、『綜藝大集合』。司会者の謝忻、阿翔、胡瓜です。阿翔が周杰倫(ジェイ・チョウ)に激似と思うのはナビだけ?
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今年度最多ノミネートの『他們在畢業的前一天爆炸2』の面々。右から鄭有傑(チェン・ヨウジエ)監督、助演女優賞と新人賞ノミネートの胡廣雯、新人賞ノミネートの夏騰宏、主演男優賞ノミネートの巫建和(ウー・ジエンホー)、同作の助演男優賞にノミネートされている宋柏緯(エディソン・ソン)。宋柏緯の目力にやられそう。
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どこのイケメン集団かと思ったらミニドラマ作品賞ノミネートのBLドラマ『HIStory2』の面々。台湾では、ゲイ役はイケメン俳優の登竜門だとか? 肝心の作品も胸キュンでオススメです!
『麻醉風暴 2』で主演女優賞ノミネートの孟耿如(モン・ガンルー)と、主演男優賞ノミネートの黃健瑋(ホワン・ジエンウェイ)。
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同じく『麻醉風暴 2』で、主演男優賞ノミネートの李國毅(レゴ・リー)。
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金曲も金鐘も、今年はやっぱりクラウド! カーペットの色と補色のグリーンのスーツを選ぶ盧廣仲(クラウド・ルー)は、やっぱりオシャレ~手書きの花がかわいい!
この3人のほのぼの雰囲気がいい~!
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先日の金馬賞で主演女優賞を受賞した謝盈萱(シエ・インシュエン)は、盧廣仲と同じ『花甲男孩轉大人(お花畑から来た少年)』チームで、長編ドラマの助演女優賞にノミネート。
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絶好調の盧廣仲が二冠! 何潤東は監督賞に!
金鐘賞で最も注目される長編ドラマ部門。今年は10項目以上でノミネートされた『花甲男孩轉大人(お花畑から来た少年)』と『台北歌手』が一騎打ちの様相を呈しました。
『花甲男孩轉大人』は、最近日本でも人気急上昇中の盧廣仲の初主演作ということでも話題を集めた作品です。
ダメダメな主人公がおばあちゃんの危篤に接し実家に帰ったところから始まる、悲喜こもごものヒューマンストーリーで、ドラマ人気から映画も公開されました。
『台北歌手』で最優秀主演女優賞の黃姵嘉。
一方『台北歌手』は、実在した日本統治時代の作家・呂赫若の半生を描いた重厚な作品。
非凡な才能に恵まれながら、時代に翻弄された呂赫若の過酷な人生を、主演の莫子儀は客家語を猛練習して演じきりました。客家語、台湾語、中国語、日本語と4つの言語に加え、劇中劇に舞台表現を融合させた斬新な撮影スタイルが高く評価されました。また主演の莫子儀が監督と共同で脚本も手がけたほどの意欲作です。
そんな『台北歌手』はかなり健闘しましたが、最終的な軍配は『花甲男孩轉大人』に上がったといえるのではないでしょうか。同作は最優秀長編ドラマ作品賞、主演男優賞、助演男優賞、新人賞と主要な賞を奪取。
盧廣仲と、『花甲男孩轉大人』で最優秀助演男優賞を受賞した劉冠廷。
中でもすごかったのは、最優秀主演男優賞と最優秀新人賞をダブル受賞した盧廣仲です。ナチュラルな演技が高く評価されたとはいえ、『台北歌手』の莫子儀、『麻醉風暴 2』の黃健瑋と李國毅(レゴ・リー)、『我的男孩』の張軒睿ら、演技派の先輩をおさえての主演男優賞受賞は、驚きの快挙!
盧廣仲は「みんなが先生でした。こんなに顔面偏差値が低い自分を起用してくれたことにも感謝します」と笑いを取りつつ、共演者やスタッフへの感謝の意を示しました。今後も役者を続けるかという問いには「金鐘が終わってから考える」と切り返し。今年ちょうどデビュー10周年を迎えた彼は、先の金曲賞でも年度楽曲賞と作曲賞を受賞し、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いです。
莫子儀と樓一安監督。
『台北歌手』勢は、最優秀主演女優賞、助演女優賞、脚本賞、照明賞、クリエーティブ賞と受賞項目こそ一つ多いですが、やはり主演男優賞と長編ドラマ作品賞を持っていかれた感は拭えません。受賞の後、舞台裏のプレスルームを訪れた莫子儀には、心なしか落胆の色が見えたように思います。盧廣仲の受賞にも興奮しましたが、莫子儀は下馬評が高かっただけに残念。とはいえ、この作品はクリエーティブ賞受賞という結果が示す通り、台湾ドラマの未来に新しい道を示してくれた秀作だったと思います。
『麻醉風暴 2』もかなりノミネートはされていたのですが、残念ながら今年は美術設計賞のみの受賞。3年前のシリーズ1のような「風暴」旋風は巻き起こせませんでした。
もう一つの快挙は、長編ドラマ監督賞に輝いた『翻牆的記憶』の何潤東と姜瑞智。何潤東は、日本でも映画やドラマでおなじみの人気俳優ですが、昨今は監督業でも才能を発揮し、今回の大きな賞に結実しました。
「歌手でデビューしましたが金曲獎を獲ったことはありません。多くの映画に主演しましたが、金馬を獲ったこともありません。今回監督として金鐘獎を受賞でき、真面目に努力していればいいことがあるんだなと思いました。これまで一緒に仕事をした監督から学ばせてもらったことに感謝します」と受賞の喜びを語りました。また「20年前からずっと見ていてくれた皆さんを前にして本当にうれしい」とメディア冥利につきるようなメッセージが印象的でした。
日本での会見時もそうなんですが、何潤東はメディアの人間をよく覚えていて「今日も来てくれてありがとう」と壇上から一人ひとりと目を合わせお礼を言うような気遣いあふれる人なんですよね。こういうところが、作品やスタッフに恵まれる彼の人徳なのかもしれません。
社会的テーマを扱った『爆炸2』と『青苔』に軍配
粒ぞろいのミニドラマ(全放映時間が600時間未満のドラマ)部門も見逃せません。ノミネートが多かったのは『青苔』と『他們在畢業的前一天爆炸2』の2本。いずれも、良質なドラマで定評のある公共電視台の作品として圧倒的な強さを見せつけました。
鄭有傑監督
『他們在畢業的前一天爆炸2』はヒマワリ学運から大企業の公害隠蔽と、政治・社会的なテーマをモチーフにしながら、登場人物の細やかな心情描写、中盤からエンディングまでの怒涛の展開と息もつかせぬストーリーで、文句なしの力作です。
ただ12項目と今年の最多ノミネート作品でありながら、最終的に最優秀ミニドラマ作品賞、最優秀監督賞の二つの受賞に留まったのは意外な結果でした。
会場中の注目をさらう、熱いメッセージを発信した鄭有傑監督。
鄭有傑監督は「監督は実際には何もしてない。演ずるのは役者で作るのはスタッフ。だからこの賞の栄誉はこの作品に関わったすべてのスタッフと俳優のもの」とした上で、「かつて言論の自由のために犠牲になった民主の先達に心からの感謝を。彼らがいたからこそ今、私たちは自由に作品作りができます。このドラマは両岸関係の現状にも触れているセンシティブな内容です。もしかしたら数年後には撮れないかもしれません。ですからこの作品に出演してくれた俳優と、今作を撮らせてくれた公共電視台にも心から感謝します。自由は、一旦失ってしまえばどんなにお金を積んでも取り戻せません。自由を守るために、皆さんにもそれを肝に銘じ台湾のドラマ・映画界を応援してほしいです」と述べました。
同作は、その内容ゆえに中国の大手配信サイトでの放映も中止になった経緯があります。それは想定の範囲内でもあったと思いますが、それでも作品を完成させ、そして今日、作品賞を受賞したということに大きな意義があるのではないでしょうか。
その他、最優秀主演男優賞は『青苔』の藍葦華、主演女優賞は『阿水和國祥』の陸弈静(ルー・イーチン)と、それぞれベテラン俳優が受賞。特に陸弈静は、日本公開された映画などにも多数出演している実力派女優ですが、「まったく予想外。すべての作品で応援してくれた皆さんありがとう」と嗚咽まじりに喜びを語ったのが印象的でした。
そして最優秀助演男優賞、最優秀助演女優賞は、それぞれ『阮氏碧花與她的兩個男人』の喜翔、『外郷女-第三力量』の廖怡裬、新人賞は『青苔』の盧以恩が受賞しました。
最優秀主演男優賞を受賞した藍葦華。
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最優秀主演女優賞を受賞した陸弈静
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ナビ的にちょっと残念だったのは、『恐怖高校劇場之直播中二間』で主演男優賞、『他們在畢業的前一天爆炸2』で助演男優賞にダブルノミネートされていた宋柏緯が受賞を逃したこと。端正すぎる美貌に繊細な演技力を兼ね備えた新進の俳優です。今回は受賞が叶いませんでしたが、今後ますます活躍が期待される人ではないかと思います。余談ですが、今回ミニドラマ作品賞にノミネートされていた「HIStory」のシリーズ1でも存在感を放っていました。
また、やはり受賞を逃した『他們在畢業的前一天爆炸2』で主演男優賞にノミネートされていた巫建和も、作品ごとに全く違う演技を見せる高い演技力がある俳優なので、今後要チェック!
いつも美しい侯佩岑
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寸劇もお手の物のふたり。安定した司会っぷりを絶賛されていましたよ
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今年度ノミネート作品の主題歌メドレーで中国語、客家語、台湾語を歌い上げた韋禮安(ウェイ・リーアン)。涙ぐむ出演者が出るほど素晴らしい歌声を聴かせてくれました。画面で見ていただけのナビも鳥肌が立ちましたよ~!
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写真提供:金鐘奨 |
ちなみに、台湾の主要アワードは授賞式の合間に行われるパフォーマンスも豪華です。人気司会コンビの浩角翔起と阿達、Janetらの華々しいオープニング・パフォーマンスから始まり、総合司会の黃子佼と侯佩岑らの寸劇、八三夭による往年のドラマ主題歌のカバーメドレー、韋禮安(ウェイ・リーアン)による今年度ノミネート作品の主題歌メドレーでフィナーレと、大いに会場を沸かせました。
『綜藝玩很大』で、教養リアリティー番組の最優秀司会者賞を受賞した呉宗憲(ジャッキー・ウー)とKID。ちなみに彼らの受賞時が、最高瞬間視聴率だったそうです。
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『綜藝大集合』でバラエティー番組の最優秀司会者賞を受賞した謝忻、胡⽠、阿翔。
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今年も多くの優秀なテレビ人が受賞の喜びに沸きましたが、受賞コメントで多くの人が口にしたのが「予算の厳しさ」。そのうちの一人、樓一安監督は「予算が厳しい中、スタッフのみんなには毎日15~18時間働いてもらった。客家電視台にはもっと予算を確保してほしい」と本音を明かしました。台湾のテレビ界は、放送局・放送枠が多いため量産を強いられがちにもかかわらず、肝心の人材は海外に流出し万年人手不足、そしてインターネットの台頭によりテレビ界自体が資金不足に陥り、制作現場はたいへん過酷な状況だそうです。
『阮氏碧花與她的兩個男人』でミニドラマ最優秀助演男優賞を受賞した喜翔。
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『麼个麼个』で子ども番組最優秀司会者賞を受賞した阿芹妹(鍾依芹)と阿迪牯(吳政迪)
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『希望之星』で非戲劇類節目導播獎を受賞した劉應鐘
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多くの受賞者が予算の少なさを訴えました |
そこで、この日最もナビの心に響いた鄭有傑監督の力強いメッセージを引用したいと思います。
「最近、台湾ではドラマ低迷という雰囲気があります。今だに台湾でドラマを撮っているなんてダメだ、という人もいます。でも私は、そうじゃないといいたい。台湾にはとても優秀なスタッフがいて、才能ある俳優がいます。みんなが頑張り続ければ必ず成し遂げられるはずです。希望が見い出せるから努力するのではなく、努力し続けてこそ希望があるのです」
苦境にくじけず、歯を食いしばって良い作品を作り続けたいという信念を貫く台湾テレビ人を、ナビも心から応援したいと思います。
以上、台北ナビ(二階堂 里美)でした。
上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。
記事登録日:2018-12-05