新型コロナウィルスの影響で規模が縮小されたとは思えないほどの盛り上がり!基隆人が1年で最も大切にするお祭りの見所に迫りました
こんにちは、台北ナビです。
台湾の人々は「旧暦(農暦)」をとても重んじています。台湾の三大節句「旧正月」「端午節」「中秋節」は旧暦で祝うため、祝日の日付は毎年異なるほどです。誕生日は旧暦も新暦でも祝う人もいるくらい、台湾には「旧暦」が生活に浸透しています。そんな中で『鬼月』と呼ばれる旧暦7月は、龕門(冥界の門)が開かれ、死者の霊魂がこの世に戻ってくる、日本でいうお盆のようなもの。
今回ナビは『鬼月』の1ヵ月間様々なイベントが開催される「中元祭」の見所である「放水燈&遊行(灯篭流し&パレード)」を取材してきました!
日本人にもおなじみの「中元」。台湾では道教&仏教のミックス版!
画像提供:Tine
「中元」についての起源は諸説あります。
仏教にとって旧暦7月15日(盂蘭盆会の中日)は夏の安居(あんご)が開ける日(解夏)で、厳しい修行を終えた僧侶たちを癒すため、ごちそうを振舞った日だとされています。そしてご先祖様を心から供養するのはもちろん、無縁仏なども施します。
道教の説では旧暦7月15日(中元)は道教の神、地官大帝(赦罪大帝)の誕生日です。地官大帝とは、三官大帝のひとりで、人々の行為を監督し罪を赦す神様であり、地官大帝の誕生日には様々な罪が赦されると考えられています。地獄にいる霊や無縁仏がこの世に戻って来られる1か月間です。
台湾では道教と仏教などの考えが融合し定着しています。そのため「中元祭」の中でこれは道教っぽいな、これは仏教っぽいなと感じるところがあって、興味深いです。
苗字を重んじる「雞籠中元祭(基隆中元祭)」。その理由に争いの歴史あり!
雞籠中元祭の起源は基隆開墾の歴史にあります。18世紀中ごろから19世紀末ごろまで、台湾各地で二大閩南語民族である福建省の漳州人と泉州市の安溪人の武装衝突(漳泉械鬥)がしばしば起こっていました。それは中華圏の人々は自らのルーツ(特に先祖の故郷)を重視することが発端となっていて、商売上、土地、信仰、習俗などで対立、摩擦が起こっていたのです。
1855年8月の漳泉械鬥では基隆で双方多くの死者・負傷者が出ました。このままではいけないと、お互いの代表が話し合い、これからは争いあわないことにしました。今後、拳のかわりに陣頭(廟のお祭りなど祭事に行われるパレードやパフォーマンス)を行いましょう、それを取り仕切るのは出身地ではなく、苗字が同じもの通しが一致団結しましょうということに決まり、これが「雞籠中元祭」の始まりとされています。
金鶏(金=金山萬里 鶏=基隆)
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貂石 (貂=三貂角(平溪、雙溪、貢寮) 石=石碇鄉(瑞芳、汐止、石碇、基隆市の七堵や暖暖))
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「金」「鶏」「貂」「石」この4つの文字は中元祭の期間中よく見かけます。というのもこれらの地域の分も合わせて盛大に執り行われているからなのです。 |
そのため、毎年、宗親會(血縁(同姓)の相互扶助組織)が順繰りに祭りを取り仕切っています。基隆の宗親會は李や陳などのほか、珍しい苗字のグループ「聯姓會」を合わせて15個あります。今年は「聯姓會(連合会)」が担当したのですが、実は聯姓會の中にも小グループが11つに分かれていて、今年は「白」と「童」の苗字グループが担当しました。つまりこの「白」「童」の苗字グループに次回順番が回ってくるのは15×11=165年後になります。
なぜこんな風に持ち回りにするのかというと、莫大な費用がかかるから。メインの会場となる主普壇の飾りつけだけで500万元を要し、ライトアップの電気代や花車(フロート/山車)の費用を足すと……目を見張るような金額になるのだとか。そのため、すべての宗親會が毎年コツコツの中元祭のために、お金を貯めているというわけなんです。
無縁仏たちのパラダイス「主普壇」
主普壇
主普壇は死者の霊魂(主に好兄弟(無縁仏))を迎える場所で、基隆の主普壇は中正公園にあります。「鬼月」の1ヵ月間霊魂たちがくつろぐ、まさにホテルのような存在。トイレ、シャワールーム、勉強をするスペースまで用意されています。特に普度の前には、桶に水が張られ、霊魂が体を清め、きれいな服を着てごちそうを食べられるようにしています。こんなに快適な場所を用意して、あの世に帰りたくなったらどうするんだろう?そんな心配はご無用です。
桶が準備されています
スクーターで金紙を運ぶのが台湾っぽい!
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金紙には無縁仏たちが必要なものを描いています
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無縁仏は少しのおこずかいも受け取れるようになっているのだとか! |
よ~くみると、トイレもシャワールームも前だけ。見せかけだからね!というメッセージを伝えているのです。街中で見られる普渡でもそうなのですが、食べに来るのは歓迎するけど、長居はしてくれるなよ!という思いが込められています。
例えば、空心菜のスープ。しかもきちんと火を通すことはしません。まず空心菜は中が空洞になっているため、心から歓迎しているわけではないことを、そして火が通っていない(不熟)は、あんまり親しくないことを意味しているのだとか。だから、霊へのメッセージは「食べたらすぐにお引き取りを~」なんだそう。
無縁仏のホテル?!
台湾のお供え物にはフルーツが多いのですが、中元節の時だけはお供えされないものがあります。それは「香蕉(バナナ)、李子(プラム)、水梨(梨)」の3つ。これらは台湾語で「招、你、來(おいで!)」の意味で、無縁仏の霊を呼び寄せてしまうため、この時期にはお供えされません。鳳梨(パイナップル)も中国語が福を呼び寄せるという意味なので、お供えされません。
無縁仏たちのごちそうってどんなもん?台湾人のおもてなしの心にビックリ!
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旧暦7月15日に行われる1年に1度のお楽しみ「普度」。無縁仏たちが食べるごちそうが主普壇に並びます。お供え物は、肉料理、ベジタリアン料理はもちろん、西欧料理まであります。なぜかというと、1884年中法戰爭(清仏戦争)により基隆で3~400人のフランス人が亡くなったから。何でも法國公墓(フランス人のお墓)にはワインやフランスパン、チーズ、ステーキなども準備されるそうですよ。台湾を侵略しようとしてやってきた兵隊さんにまで優しいだなんて、なんというおもてなしの国なんだろう、台湾は!
無縁仏を主普壇へ迷わぬように導くためのイベントが中元祭の見所!
『鬼月』の1ヵ月間開催される「中元祭」。龕門(冥界の門)が開かれ、閉じられるまでの1ヵ月間なのですが、大まかな流れは以下のようになっています。
・無縁仏をパーティ会場となる「主普壇」に導く提灯に灯りを灯す
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・龕門を開く
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・「主普壇」に竹を立て、お供え物を準備し、ライトアップをする
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★パレード&灯篭流し
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・普度(パーティー)
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・あの世に戻ろうとしない無縁仏を懐柔し、ルールを守らない無縁仏を捕まえる
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・冥界の門を閉じる
つまり最大のお楽しみ「普度」へ無縁仏を導いてあげて、楽しんだ後はすみやかにあの世へ帰っていただくお祭りだと言えます。今回ナビは★マークのパレードと灯篭流しを見てきました!
灯篭が基隆市内をパレード!
花車
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灯篭は……
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トラックに載せられて移動のよう!
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灯篭輸送の現場に偶然遭遇しました! |
海の中にいる無縁仏たちに「普度がありますよ~!この灯りを目印に会場へどうぞ~」というのが灯篭流しの目的。つまり死者を弔いあの世へ送る日本の灯篭流しとちょうど反対の目的なのです。 しかし、市内をパレードしてから灯篭を流すのは日本の灯篭流しと似ていますよね!
灯篭はまず花車(山車/フロート)に乗せて基隆の町を巡ります。なんでも廟口夜市も通るとのことなので、珍しい夜市の光景を見たい方は夜市付近で待機されるのをオススメします。ナビは海への移動を急いだため、その光景は見られませんでした。
キラキラ~☆
台湾のお祭りといえばこのキンキラキンの「花車」。その名前のとおり、以前は花を飾った車が多かったのですが、現在は電飾がメインとなっています。北管や南管などの伝統的な音楽は少なくなってきていて、ダンスミュージックが爆音で流れるのも特徴のひとつです。このド派手で明るい雰囲気、何度見てもテンションが上がってしまいます。
そして、どの花車にも大きく苗字が掲げられています。なるほど、苗字グループが一致団結して開催されるというのがここからも感じられるというわけなのですね。
今年は新型コロナウィルスの影響で、規模は3割ほどに縮小していました。そのため、初めて交通規制を行わずに開催されたので、バス、タクシー、スクーター、セグウェイなどと花車が一緒に走るという稀有な光景も見られたんです。
地元民の会話を聞いていると、「今年はちょっと盛り上がりに欠けるなぁ」「信号待ちがあるから、花車が途切れ途切れに来るのがイマイチ~」などという意見もあったようですが、初めてこのパレードを見たナビにとっては、十分楽しめました。これ、100%の規模だったらどれだけすごい規模のお祭りになんだろう……。コロナが収まった後、また参加したいなぁ!
基隆人の思いが詰まった灯篭が海へ!幻想的なイベントに感動
花車はパレードが終わると、「八斗子望海巷」に続々と到着し、灯篭を流す準備を始めます。まずは花車から灯篭を下ろし、灯篭を一旦待機させておく場所へ移動。待機所で金紙(あの世のお金/冥紙)を灯篭へ入れてその時を待ちます。
八斗子望海巷の駐車場は色んな花車から流れるダンスミュージックであたかもクラブにいるような気分になっちゃいます
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車からおろされた灯篭はおみこしのように待機所へ運ばれます
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基本的な灯篭は家の形をしていて、それをそのまま流しますが、今年は165年に持ち回りがやってくる「聯姓會」の「白」と「童」!各苗字が作った灯篭をのせる巨大船の形をした灯篭まで準備していました。海へ移動するためにクレーン車を用意したのは、今年が初めてとのことで、白一族、童一族の気合と思いの大きさが伝わってきます。
ドーーーーン!巨大!!
舞台で開始した読経は、各灯篭の待機場所、巨大船灯篭へと場所を移動し、これが終われば、灯篭を海に流す時。
先陣を切るのはもちろん「白」と「童」の「聯姓會」!クレーンを使って移動させ、火を灯すと灯篭が海へ流されるのですが、この日は台風の影響を受けて波がかなり高く、荒波に向かっていく灯篭に思わず「加油!(頑張れ~)」と声をかけずにいられないほど、ゆっくりゆっくり灯篭は歩を進めます。ナビ、思いました。気合をいれて大きな船型の灯篭にしていたからこそ、ゆっくりだけど波を乗り越えられたんだなって。
クレーンの紐から解き放たれた船型の灯篭。荒波に向かっていきます!
ほかの一族の灯篭も海へ向かいます
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こんな風に列になっていますよ~!
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無縁仏のために行われる灯篭流しですが、灯篭を遠くに流せれば流せただけ、多くの無縁仏の助けになり、ひいてはその一族の翌年の運気が良くなると考えられています。
そのため本来なら灯篭が流しやすい旧暦7月24~26日に流していましたが、環境に配慮して短期間にイベントをぎゅっと詰めて開催されています。旧暦の7月15日は毎年大潮なので、波が高く、遠くまで流すために、ダイビング隊が手で押すこともあるそうです。
例年流すのに苦労する灯篭ですが、今年は台風まで重なって、巨大船灯篭以外の灯篭はすべて数メートルだけ流れて火が消えてしまいました……。それでも基隆市民が一致団結し伝統行事を伝えていけたという満足感が会場からの熱気と笑顔から伝わりましたよ。
灯篭流しが始まる前から波がどんどん高くなってきました!
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標準の灯篭は太刀打ちできません。涙
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来年はコロナの影響なく、盛大に執り行われますように……。その際にはナビは再度この地を訪れたいと思います!
以上、台北ナビがお届けしました。