台湾の新幹線開発によってつながった、日台の人びとの温かい交流
こんにちは、
大原扁理です。
突然ですがみなさん、台湾新幹線(高鉄)に乗ったことはありますか?高鉄は、台北から高雄までを最短約90分で結ぶ、台湾の新幹線です。飛行機よりも断然利用しやすく、日帰りで台湾縦断できて、さらに短期滞在の外国籍旅行者にはお得な周遊券も販売。そんなわけで台湾人だけではなく、台湾を訪れる外国人にとっても、なくてはならない存在なのです。私も時間の限られた取材旅行のときなど、よく利用しています。
なぜ急にそんな話から始めたかといえば、ご存じの方も多いと思いますが、この高鉄は日本の新幹線技術が海外に始めて輸出されたケースなのです。そしてこの高鉄の開発に関わった日台の人々の人生が、小説として書かれているのです!そんなん聞いたら読まいでか!
というわけで今回紹介する本はこちら、吉田修一さんの『路(ルウ)』です。
ドラマの原作にもなった、吉田修一さんの長編小説『路』
著者の吉田修一さんは、1997年に純文学小説でデビューして以来、エンタメ、恋愛、犯罪小説と幅広い作風で書き続け、芥川賞をはじめ数々の賞を獲っています。また映画化も多く、しかも必ず大ヒットするので、吉田修一さんの作品をなんらかの形で読んだ/観たことがない、という人はいないのではないでしょうか。
実は大の台湾好きで、年に数回は訪れているとエッセイに書かれていた吉田さん。そんな吉田さんが満を持して、台湾を舞台に書いたのがこの『路』という小説です。
2012年に発行され、翌年には台湾でも翻訳版が発行、2015年に文庫化、さらに2020年には日体協同制作でテレビドラマ化もされ、大きな話題になりました。
あふれる台湾あるあるに、首がもげるほどうなずく
さて、高鉄が開業したのは2007年1月5日なのですが、この小説は2000年、高鉄建設事業の国際的な入札イベントから始まります。この事業を勝ち取り、台湾に出向することになった日本人。逆に日本で就職することになった台湾人。高鉄の完成を楽しみにしている湾生の日本人。高鉄の整備工場で働く台湾人。
ある人は9年前に、またある人は60年も前に、途切れてしまった想いを抱えてそれぞれ生きています。そんな国籍も年齢もさまざまな人々の想いを乗せて、いよいよ高鉄が走るシーンでは、つい目頭が熱くなってしまいました。
そして、私が読みながらニヤニヤしてしまったのは、小説内にあふれる台湾あるある。
たとえば、日本人は家族間にも遠慮があるけれど、台湾人は家族に遠慮なんかされたら他人みたいで悲しくなること。日本でスケジュールといえば、予定通りに進めるための出発点だけど、台湾でスケジュールというのはただの到達点であること。また、台湾で暮らしていると、急に雨に降られても時間を気にしなくなること。台北は夜になると匂いが変わること。木々の緑が濃くて力強いこと、などなど。
め、めっちゃわかる…!と首がもげるほどうなずき、まるで長年台湾に住んでるかのような吉田さんの洞察力に驚愕してしまいました。
台湾に対する「好き」の成分って、まさにこんな感じ
ところで、「台湾が好きです」と台湾人に言うと、「なんでそんなに台湾が好きなの?」と返されて、そう問われるとひとことでズバッと答えられなくて悔しい…、というのは、台湾に住んだことがある/台湾をよく訪れる人なら誰でも一度は経験があると思います。
たしかに、世界的に有名なご当地ハイブランドが連なるショッピングストリートとか、ユネスコ世界遺産とか、ブロードウェイとかシリコンバレーとかオックスフォード大学とか、ああいう規模のものはないんです。
でも~!「好き」っていうのは~!それだけじゃないでしょう~っ!(←地団駄を踏みながら)
そんな私に刺さりまくったシーンがあります。台湾人の劉人豪と、日本人の多田春香の、このやりとり。
「春香さんを見てると、『人生』は楽しいものなんだってことを思い出すよ」
「そう?……でもね、それを私に教えてくれたのは、あなたたち台湾人なのよ」
そう!そういう感じなんだよ!(←今度は膝を打ちながら)
だからといって、「なぜ台湾が好きなのか」をひとことでズバッと言えるようになったわけではないんです(笑)。たぶんこれからも、「日本のほうがいいじゃん」「いや台湾だっていいよ」「どこが?」「う、うぬぬ…」とかいうやりとりを続けつつ、だけど私にはこの小説があることをいつも心強く感じながら、これからも台湾で生活していくだろう、と思ったのでした。
【今回紹介した本】
『路』著・吉田修一 (文春文庫) 670円+税 2015年5月10日発売
・吉田修一さんのウェブサイト
http://yoshidashuichi.com/ ・吉田修一さんのTwitter
https://twitter.com/yoshidashuichi
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記事登録日:2023-01-04