大原扁理の台湾読書⑮『台湾探見 Discover Taiwan』

台湾在住20年超の作家夫婦が、台湾各地の魅力をディープに紹介!

こんにちは。大原扁理です。

台湾の観光客受け入れが再開されてから、約9ヶ月。雑誌やネット・SNSでも台湾観光情報を頻繁に見かけるようになりましたね~。個人的にも嬉しい限りです。
でも、台湾を初めて訪れる人ならまだしも、何度も来ている人にとっては、巷の観光情報が、帯に短したすきに長し……と思うことはないでしょうか?

たとえば「媽祖は海の女神で、台湾で最も愛されている」。なんで?

または、「台湾はマンゴーが安くて美味しく、種類もさまざま」でも、なんで?
あるいは、「ここ数年、台湾デザインのMITアイテムがアツい!」だけど、なんで!?

……っていう(笑)。広く浅い旅行雑誌の情報や、ネット・SNSの瞬間最大風速的なマイクロトレンドも見てるのは楽しいんです。けど、何がどうしてそうなったのかという、もうちょっと文化的・歴史的背景にまで踏み込んだ、射程距離の長い好奇心を満たしてくれるものが読みたい!(←単なるワガママ?)
いいえ、あるんです!そんな私のワガママな好奇心を満たしてくれる、ぴったりの本が!

というわけで今回はこちらの本をご紹介させてください。片倉真理さん&片倉佳史さんの『台湾探見 Discover Taiwan』です!

案ずるな!我々には片倉夫妻がついている!

まずは片倉真理さん&片倉佳史さんというお二人について簡単にご紹介を。台湾に住んでいる日本人なら、このお二人の名前を知らない人はいないという、台湾在住作家のご夫婦です。

ともに台湾在住20年以上、ものすごい熱量で台湾について取材・発信を続け、今までカバーしてきたジャンルはグルメやエンタメ、おみやげ、観光スポットなどの基本的な観光情報はもちろん、日本統治時代の遺稿、日本語世代のお年寄りへの聞き取り、台湾原住民の調査、鉄道、建築、指さし会話帳、またご本人が表に出ないメディアコーディネートなども含めたら、たくさんありすぎてここには書き切れません。 
ジャンルを問わず、台湾のことを知りたいと思ったとき、このお二人の残した功績にふれない人はいないといっても大げさではないほど。だから台湾のことを知りたい人には、とても心強いガイド的存在なのです。

ちなみに、片倉佳史さんの本『台北・歴史建築探訪 日本が残した建築遺産を歩く 1895~1945』は、この連載の第一回でも取り上げています。 

こんな台湾本が欲しかった!古びない情報が満載

さて、今回ご紹介する本『台湾探見 Discover Taiwan』は、片倉真理さんが文章、片倉佳史さんが写真を担当しています。『ちょっぴりディープに台湾体験』という副題がついているとおり、台湾初心者というよりも中級者向けの内容。 
発売が2018年なので、「情報が古いのでは?」と思われるかもしれませんが、心配ご無用。この本では、雑誌やSNSで取り扱うような、日々移り変わるタイプのトレンドは追いかけません。どちらかというと、もっと大きな流れの中でものごとをとらえ、台湾の現状を形作った根っこの部分にフォーカスしています。
それでいて誰にとっても読みやすいのがこの本の美点でもあります。なにしろ長年の在住経験によって積み重ねられた膨大な成果と、オールラウンドな取材範囲、そして文章にはクセがなく、視点や取材対象の偏りもなく、写真もきれい!ハッキリ言ってこの情報量が一冊にまとめられているのはかなりお得です。

読むだけで、台湾文化をちょっぴりディープに疑似体験

で、肝心の内容ですが、大都市から離島まで台湾中を広くカバーしつつ、それぞれに、ちょっと慣れた旅行者でも行けないくらい台湾文化に踏み込んでいます。 

たとえば媽祖。媽祖といえば前述のとおり、台湾で最も愛されている海の女神です。でも、なぜ台湾で媽祖がそんなに愛されているのか?そこで著者の片倉真理さん&佳史さんは、毎年開催される最大の媽祖祭「大甲媽祖巡礼」を取材するのです。 
「大甲媽祖巡礼」は、神輿に載せられた媽祖が、台中郊外の大甲という街から出発し、嘉義・彰化・雲林を含む4県を、8泊9日かけて巡礼するという大規模なお祭り。神輿が近づくと、みんな道路に一列にうずくまり、神輿の下をくぐって厄払い。真理さんも、知らないおばさんに誘われて急に参加(笑)。 
巡礼の道中には、飲食物やシャワーや休憩部屋まで善意で貸し出され、老いも若きも、外国人も、ひととき媽祖を中心にひとつになり、そして晴れやかな表情でまたそれぞれの日常に戻っていく。こうした日常に息づく相互扶助の精神が、きっとこの社会に対する信頼を育んでいる要因のひとつなのだろうと拝察されて、読んでいる私もその場に参加したような、とても温かい気持ちをわけてもらった気になります。そして、「だから媽祖が人気なのね~」と、またひとつ台湾を深く知るのでした。 
と、この勢いで真理さんは台湾マンゴーの父と呼ばれる人物を訪ね、台湾デザインを支える人々のアイデンティティのありようを探り、さらには原住民から日本語世代のインタビューまで。台湾のことを深く知りたいけれど個人ではなかなか叶わないようなとき、この本はきっと役に立つこと請け合いです。
片倉夫妻の好奇心と熱量に、気軽に相乗りさせてもらえるお得な本。ぜひ手に取ってみてください。 

【今回紹介した本】

『台湾探見 Discover Taiwan ちょっぴりディープに台湾体験』片倉真理、片倉佳史・著(ウェッジ)1500円+税 2018年4月20日発売 

・片倉真理さんのTwitter
https://twitter.com/formosamari 

・片倉佳史さんのTwitter
https://twitter.com/katakura_nwo 

・片倉佳史さんの公式ウェブサイト
https://katakura.jimdosite.com

上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。

記事登録日:2023-06-26

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