【台湾本紹介】大原扁理の台湾読書日記⑫『わたしの台湾・東海岸』

一冊まるごと台湾東海岸を紹介する、レアなガイド&エッセイ本

こんにちは。大原扁理です。

台湾のガイド本というと、いちばん人気が台北、次点に台南~高雄、という感じだと思うんですが、東海岸を取り上げた本ってあまり見かけませんよね。台湾の主要観光都市は西海岸に集中しているし、中央山脈をはさんで東海岸へはアクセスの不便性もあり、行ったことがないという人も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、台湾本のなかでは珍しい、東海岸をフィーチャーしたガイド&エッセイ『わたしの台湾・東海岸』を紹介します。

台湾東海岸は、一青妙さんを差し置いては語れない。その理由とは?

著者の一青妙さんは、作家・役者・歯科医として多方面で活躍中。台南市親善大使でもあり、台湾について活発な発信を行っています。名前でピンと来た方もいるかもしれませんが、歌手の一青窈さんのお姉さんでもあります。
まず巻末のプロフィールをひと目見て、「台湾の東海岸」を書くのにこれ以上ぴったりの人はいないだろう、と思いました。というのも一青さんは、台湾人の父と日本人の母を持つ日台ハーフ。と、ここまでならよくある話。実は一青さんの父・顔恵民という人は、今も経済的・政治的に大きな勢力を誇る台湾五大家族のひとつ「基隆の顔家」の後継者だったのです。

基隆はかつて東海岸で栄えた港湾都市であり、顔家は台湾五大家族で唯一、東海岸の名家。そんなわけで、台湾東海岸のことを書くなら、顔家の子孫である一青さん以上の適任者はいないでしょう!読む前から期待がふくらみます。

一青妙さんが語る、東海岸の魅力とは

さて、この本は副題に「『もう一つの台湾』をめぐる旅」とあります。一青さんによれば、東海岸には「小籠包、国立故宮博物院、マッサージ、牛肉麺、台北101」といった、いわゆる台湾を代表する観光名所にはない魅力がある、とのこと。

たしかに東海岸は、台北のように観光客向けに開発されているわけでもなく、交通も不便で、おいしいお店も駅から徒歩○分というわけにはいきません。それでも、補って余りある何か、「魂の何かに深く触れる」ような「癒し」と「学び」があると一青さんはいいます。
一青さんは東海岸の各都市を訪れ、ひとつの出会いに導かれるようにしてまた次の出会いへと、たずね歩いて行きます。一度は就職のために台北や海外へ出たものの、やがて故郷である東海岸に戻ってきた人々。原住民村の豊年祭で出会った日本語世代の老人たち。地元の人々の尽力によって復元された神社。そして、かつて顔家が所有していた会社や土地の痕跡。
東海岸には、あまり取り上げられることのない未開発の自然や、そこに暮らす素朴な人々、思いがけぬ日台の歴史的つながり、そして一青さん自身のルーツである顔家との出会いが、必ずといっていいほど待っていたのでした。
ところでこの本は「ガイド&エッセイ」という紹介の通り、ほかのガイドブックとはちょっと違います。

というのも、当然といえば当然ですが、ここに紹介されているのは「一青さんの出会った台湾・東海岸」なんですよね。お店や場所のガイドもありますが、この本の通りに巡っても、一青さんと同じ体験はできません。
台湾の東海岸は、万人と共有できる体験をお膳立てしてくれる場所というよりも、自分から探しに行き、まだどこにも紹介されていない自分だけの何かに出会う場所。

これはそのヒントを与えてくれる本、という感じがします。
観光しやすい台北に慣れていると、ちょっと大変そうに聞こえますが、言い換えれば、それぞれの好奇心と行動力と偶然の組み合わせによって、その魅力は万華鏡のように千変万化します。旅行を終えたあとには、「あなたの東海岸、どうだった?」といって、誰かと体験を語り合いたくなる。それが東海岸の魅力かもしれません。

次の台湾旅行は、誰ともかぶらない自分だけの台湾を見つけに、東海岸へ行ってみてはいかがでしょうか。

一青さんに書いて欲しい本を勝手にリクエスト!

ちなみに一青さんには、すでに台湾関連の著作が多数あります。自分のルーツをたどって日本と台湾をめぐる『私の箱子』、旧きよき台湾の面影を探す『わたしの台南』、自転車で台湾一周に挑戦した『「環島」台湾ぐるっと一周の旅』、そして今回紹介した『わたしの台湾・東海岸』。
そこで、日本人がまだ知らない台湾をいち早く紹介してくれる一青さんに、私が期待したい次作は、ズバリ「台湾の離島を旅する本」。馬祖、綠島、澎湖、小琉球、金馬、そして蘭嶼と、台湾にはたくさんの離島があります。だけど日本人が観光で行くには、遠いわ情報も少ないわで、ハードルが高い……(笑)。なのでこの場を借りて、勝手にリクエストさせていただきました。実現するといいな~!

【今回紹介した本】
『わたしの台湾・東海岸』一青妙・著(新潮社)1200円+税 2016年9月20日発売

・一青妙さんのTwitter
https://twitter.com/taehitoto

・一青妙さんの公式ホームページ
https://hitototae.com/

画像提供:一青妙

上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。

記事登録日:2023-02-22

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