【台湾本】大原扁理の台湾読書日記⑬ 『台湾はおばちゃんで回ってる?!』

元気なおばちゃんたちから、台湾社会が見えてくる!

こんにちは、大原扁理です。 

以前から思っていたんですが、「地名+人種」でカテゴリ分けする風潮ってありますよね。たとえば「大阪のおばちゃん」「九州男児」「京女」、もっと局所的には「渋谷のギャル」「新宿のホスト」なども含まれるかもしれません。

もちろん、最終的には個別の問題なので、ひとくくりにすることには限界があるとも思うのですが、それでもこうした人々に、無視できない魅力があることは否めない。そして何を隠そう、台湾にも存在するのです。「台湾のおばちゃん」という、魅力あふれる人種カテゴリが!! 

「台湾のおばちゃん」として生きる日本人のエッセイ

というわけで今回紹介するのは、近藤弥生子さん著『台湾はおばちゃんで回ってる?!』です。

著者の近藤弥生子さんは、台湾在住ノンフィクションライター。オードリー・タン関連の著作も多く、この連載でも以前、『オードリー・タンの思考』を紹介したことがあります。
著者の近藤弥生子さん

著者の近藤弥生子さん

自分以外のことを題材に書かれてきた近藤さんが、今回は自分自身のことをエッセイに書かれたというので、どんなテーマかと思ったら「台湾のおばちゃん」(笑)。たしかに、あんなに強大な勢力を誇っている人々なのに、これまで彼女たちにスポットを当てた本はありそうでなかった!

で、それはなぜかといえば、近藤さん自身が現在「台湾のおばちゃん」として生きているから、だったのです!

台湾で幅を利かす、自由でかわいい「雞婆(鶏婆)」

冒頭では、まず台湾に存在するおせっかいおばちゃん=「雞婆(鶏婆)」という形容名詞の解説から始まります。そして台湾のおばちゃんたちの、パワフルで人情深い生態が怒濤のように綴られます。
たとえば、子連れで食堂に行くと、お母さんが食べている間、子どもと遊んでくれるお店のおばちゃん。お買い得情報や楽しいイベントがあると、必ず周りを巻き込んでシェアしようとする近所のおばちゃん。そして自転車の後ろに載せた子どもが爆睡していると、落ちないように野菜を束ねるビニールひもでぐるぐる巻きにしてくれる市場のおばちゃんも(笑)。自由すぎる~!

子連れで窮屈な思いをすることがない

しかしこの本は、台湾のおばちゃんの生態観察だけでは終わりません。

中盤からは、近藤さん自身の台湾生活が織り込まれます。駐在員の妻として台湾に移住、一人目の出産、帰国。さらに離婚を経てシングルマザーとして再渡台してから、育児、再婚、二人目の出産まで。

さまざまな状況を経験したからこそ、それぞれの立場にある人々が、台湾社会でどのように扱われているのかをつぶさに見てきた近藤さん。そうして導き出した結論は、「台湾社会は、とにかく子連れにやさしい」。
まず幼児同伴で出勤するのはよくある光景。熾烈をきわめる台北市内の部屋探しでは、子連れの近藤さんを優先的に内覧させてくれたり。バスに乗れば運転手のおっちゃんが、「ベビーカーのおかあさん、どこで降りるの?」と聞いてくれ、降りやすいところに停めてくれる。

さらに妊婦に至っては、妊娠中から産後ケアまで社会的な理解があり、ものすごく制度も整っていて利用しやすい!!
産後ケアセンターのようす。ホテルのような個室

産後ケアセンターのようす。ホテルのような個室

栄養士が管理する食事

栄養士が管理する食事

面会ロビー

面会ロビー

と、このあたりで、おせっかいおばちゃんを心に秘めているのは、どうやらおばちゃんに限ったことではない、というのがわかります。若い女の子も、男の子も、何ならおっちゃんまで!台湾ではみんな、鶏婆のポテンシャルを持っているようなのです。

どんな人でも安心して読める文章が魅力

「そんなの近藤さんが特別なんでしょ」と思われるかもしませんが、さにあらず。この本の美点は、一部の恵まれた特権階級の「キラキラセレブ海外生活」ではないところなんです。ああいう本もたしかに面白いんですが、心身が弱っているときに読むと、逆に落ち込むことがありますよね。

でも、親しみをこめてあえてこう書きますが、近藤さん自身がけっこうへなちょこで(笑)。だから、いかに海外で自力でたくましく生きているか、ではなく「いかにたくさんの人に助けられて生きているか」に力点が置かれています。

そして、近藤さんのお人柄が表れているな~と思うのが、すべての立場の人々への気配りが行き届いた文章。だから、いまちょっとしんどい状態の人でも、自分と比較して落ち込むほうへ行かず、安心して読み進められるはず。

ゆるやかなやさしさが循環する社会

この本を読んで改めて思うのは、台湾社会はコミュニケーションの外枠が大きいな、ということ。誰かに何かをしてもらっても、今すぐ、同じ形で、その人に返さなくてもいい。すべてはお互いさま。いつか自分も助ける側になり、そしてまた助けられるときがくる。

台湾には、そういったゆるやかなやさしさの循環があり、それを信じられる社会にしているのは、地べたの「鶏婆」=おせっかいおばちゃんを心に飼っている人々の仕業だったのですね。

そしてもう一つ大事なこと。誰かが困っているとき、政治に訴えかけることも忘れないけれど、そんな大きなスケールではなく、もっと小さなことで、個人にもできることはある。誰もが生きやすい社会のためにどちらか一方を選ばなくてはいけないものではなく、それは私たち次第で両立させていけるものなのだ、ということを教わった気がしました。
このような自由でパワフルなおせっかいおばちゃんたちに囲まれて、近藤さんは自分のなかにある「こうでなくてはいけない」という思い込みを外していきます。そして順調に「台湾のおばちゃん化」し、今では台湾でおせっかいを振りまいているのでした(笑)。

楽しく読めて、それでいて学びの多い一冊。いろいろと生きづらさを感じる時代にこそ、読んで損はないと思います!

【今回紹介した本】 『台湾はおばちゃんで回ってる?!』著・近藤弥生子(大和書房)780円+税 2022年12月8日発売
https://www.daiwashobo.co.jp/book/b614406.html 

・近藤弥生子さんのウェブサイト
http://www.yaephone.com/

・近藤弥生子さんのTwitter
https://twitter.com/yaephone

紹介者:大原扁理(https://ameblo.jp/oharahenri)  

画像提供:近藤弥生子(一部、書籍に掲載されていない画像も提供していただきました)

上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。

記事登録日:2023-03-20

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