一青妙さんが、家族や日本、台湾のことを綴ったエッセイ本、この度内容と写真が増えた中国語版も発売されました!
初エッセー「私の箱子」の中国語版を出版された一青妙さんに、ナビがインタビュー!
エッセーについて、台湾時代の思い出などについてうかがってきました。
本作品は、母親の生前の日記を元に、家族の間に起きた過去の出来事をひも解いていくという形で家族の絆が描かれています。
一家の歴史の中では台湾の土地と日台の歴史が深く関わっており、家族のストーリーながらも30年ほど前の台湾の様子や、戦中から戦後の台湾の人々の気持ちがリアルに感じ取れる一作となっています。
「私の箱子」台湾での発売について
ナビ:そもそもエッセーを出版されるきっかけはどういうものだったのですか?
一青妙さん:もともと顔家や台湾のことについて書くつもりではなかったんですよ。母が父の闘病日記を本にしたいという思いは聞いていたんですが、その前に母も亡くなってしまったんですね。その後、父の友人によって寄稿という形で追悼集は作られたんですが、そこには母の書いたものは入っていなくて。そして、実家を整理している際に、箱のなかから半分くらいまで清書もされている母の手記が見つかって、「これは本当にやりたかったんだな」と思い、その続きができたらなというのがきっかけでした。
日記を見ながら本を書いていくうちに、自分は両親について何も知らなかったことに気付いたんです。2人がどうやって出会って、なぜ父があんなにお酒を飲んで、そして、なぜしゃべらなくなったのかということについて理由などをさかのぼって調べていくうちに、わからないことがとても多く、結局一から謎を解いていくというようになったんですよね。結果としては、私が分からなかったことを探って、ひとつひとつ整理していったという感じです。
ナビ:中国語版が発売されるにあたって、どのような思いがありますか?
一青:日本で発売する時は、初エッセーということもあり、家族というプライベートなテーマの話を読んでくれるのかと不安だったのですが、台湾は父側の親戚がまだ住んでいるので、その人達がどのような反応をするのかというのに興味があります。父が台湾人なので、最終的には台湾で何かを残せればということも思ってはいたのですが、まさか台湾で一般発売されるとは思ってもみなかったので、こんなにトントン拍子で進んだのが自分でも意外です。
ナビ:ということは、一般の人に見てもらいたいという意識はあまりなかったのですか? 一青:逆に台湾の一般の人にも見ていただいて、日本人がどのように台湾に関わっていたのか知ってほしいと思っています。日台関係について書いた本を見ていると、30代~40代の人が書いている本が比較的少なくて、硬めの歴史書だったり、70代以上の年配の方が書いている本が多いので、今を生きている人の目を通して紹介するという位置づけの本になれたら嬉しいです。
ナビ:中国語版と日本語版で何か違いはありますか?
一青:写真が増え、分量も多くなりました。写真は父親像がわかるもの、母親の写真、家族写真など、台湾の思い出が分かるものを探して入れました。例えば日月潭で原住民のアミ族の衣装を着た写真や小学校のクラスメイトとの写真も載せています。
そして、台湾版のあとがきも書きました。あとがきでは、もともと日本語版でもいれようとおもっていたけれど、結局入れなかったものや、台湾一周(環島)をした話もいれました。以前台湾に帰っていた時は、台北の親戚がいる一帯しかいっていなかったんですよ。同じ台北でも南とか市政府のほうにも行ったことはなかったんです。
ナビ:台湾一周はおひとりで行かれたんですか?
一青:はい、自分でレンタカーを借りて、4泊5日で行ってきました。
ナビ:台湾一周で新しい発見もありましたか?
一青:名前は聞いていたけど、最南端の鵝鑾鼻とか、台東とか実際は知らなくて、泥湯の關子嶺温泉とか、太魯閣の景色とか見て、台湾は一周できるのはすごいなと思いましたね。台湾一周の映画(「練習曲」)のように自転車でまわっている人もいて面白いなと思いました。
父・顔恵民さんについて
ナビ:父の顔恵民さんは台湾の五大家族である顔家のご出身ということで、基隆の中正公園も顔家の土地だったんですね。ナビも最近中正公園に行ってきたんですが、その広さに驚きました。 一青:私も実は公園になっているとは知らなくて、実際に行ったのがこのエッセーを書き始めてからだったんですよ。台湾における顔家の位置づけなどもよく知らず、今回エッセーを書いて、基隆や九份、台北のどこどこの建物も顔家の土地だったということを教えてもらい、自分でも勉強になりましたね。
ナビ:中正公園にお墓があるんですか?
一青:中正公園の隣の学校の裏にあるんですよ。
ナビ:ちょうど今台湾は清明節ですが(※4月5日にインタビュー実施)、一青さんもお墓参りには行かれたのですか?
一青:よく聞かれるんですが、顔家は旧暦8月19日がお墓参りに行く日で、清明節ではないんですよ。台湾でも一族によって違うみたいです。
台湾社会の昔と今
ナビ:エッセーの中では当時の台湾の小学校の様子なども書かれていて、とても勉強になりました。日本の学校と台湾の学校では違いましたか?
一青:全く違いました。天国と地獄というか。日本の小学校ってなんて楽しいんだろうという印象しかないです。台湾の小学校時代は、写真などを見返してみると運動会の楽しい写真などもあるのですが、そのあたりの記憶が全部飛んでしまうくらい、勉強や規則が厳しいという思い出ばかりで、グレーな感じです。(笑)
ナビ:昔のバスの話もエッセーの中で書かれていましたが、今は車内もきれいで、前方には次は◯駅という表示も出ていますが、昔は全くこうではなかったのですか?
一青:まず、後ろに切符を切る係の人がいたり、インドとかほどではないけれど、バスの外にも人が飛び出ていて、必死にしがみついていたりだとか、今はみなさんゆったりと座っていますが、昔は人もものすごく多かったんですよ。タクシーなんかも、床が破れていて、車内から地面が見えたりもしていました。
ナビ:小さい頃の思い出の味である鶏湯麺が、実は鼎泰豊のものだったというエピソードがありましたが、エッセーを読んでいてその鶏湯麺にすごく惹かれました。
一青:鶏好きだったら是非!スープは透明なんですが、わりとしっかり鶏の味がついてます。鶏肉もくたくたになるまでやわらかく煮こまれていて。
ナビ:今も鼎泰豊では鶏湯麺を頼まれるんですか?
一青:そうですね。小籠包をいくつかと麺を頼んでます。鶏湯麺はスープと麺が分かれた状態で運ばれてくるんですが、スープだけを注文することもできるんですよ。
一青妙さんおすすめの台湾観光スポット
ナビ:現在も台北ナビで台湾のいろいろなものをご紹介いただいていますが、台北ナビの読者に伝えたいこと、あるいは最近おすすめのスポットはありますか?
一青:実は、2009年から日本と台湾を行き来する前までは、普通の日本人で台湾によく来ている人のほうが私より詳しかったんですよ。私はハーフだけど知らないことだらけで。なので、ガイドブックも持ってきてました。(笑)今ようやくみなさんに追いついた感じです。今度は昔と今の台湾の違いや文化的なものなど、食べるのや遊ぶのも面白いけれど、渡台3回目、4回目以降の人にも楽しめるようなことを紹介して行きたいと思っています。
もともと変わったものが好きで、原稿を書いたものの没になってしまったものも…。以前、医療関係の博物館の記事を書いたんですが、そこではグロテスクに、内臓のホルマリン漬けのものを展示していて、その写真なんかも載せていたんですが、今その記事の掲載は終わっちゃってます…。(笑)
最近のおすすめは菁桐や十分のあたりですね。九份みたいな雰囲気はありつつ、あまり開発されてなくて雰囲気がいいのでおすすめです。
女優、歯科医師、そして作家と分野の全く異なるマルチな分野で活躍される一青妙さん。
とても落ち着いた雰囲気で、丁寧な言葉でインタビューに答えてくださる様子が印象的でした。これぞ洗練された大人の女性という感じです。
ナビは台湾の歴史について本で少しだけ学んだことはあったのですが、やはりそれは「歴史」としてで、少し距離を置いたものとしてとらえており、当時の人々の感情までは考えたことがありませんでした。しかし、「私の箱子」を読んで、そして一青さんのお話をうかがって、昔の台湾の様子をより身近に感じることができ、とても勉強になりました。
台湾社会に興味のある方にはぜひ読んでいただきたい一冊です。
今後新作エッセーの発売も予定されているとのことなので、これからも一青妙さんが紹介してくださる台湾情報にも期待しましょう!
上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。
記事登録日:2013-05-09