台湾で活躍する俳優、蔭山征彦さんインタビュー

9月公開の『バオバオ フツウの家族』では同性愛者チャールズ役を熱演!脚本家としても活躍中の蔭山さんに、仕事や家族への思いを伺いました

画像提供:オンリー・ハーツ/GOLD FINGER

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こんにちは、台北ナビです。

9月28日(土)より新宿K’s cinemaほかにて、台湾映画『バオバオ フツウの家族』が公開されます。2018年に台湾で公開、スペインやロスアンゼルスの映画祭でも上映された本作のテーマは、LGBT(セクシュアル・マイノリティ)。

台湾では今年5月にアジアで初めて同性婚を合法化する法案が可決され、話題になりましたよね。本作では「同性を愛してしまう自分に悩む」というこれまでよく見られたテーマを超え、親との確執や社会的軋轢など、愛し合う二人が同性であるがゆえの苦悩にスポットを当てた、深い人間ドラマとなっています。

台湾でマルチな才能を発揮する蔭山征彦さん

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映画は、妊婦のシンディ(エミー・レイズ)がひとりロンドンから台湾に戻るシーンから始まります。

シンディは元々、愛するジョアン(クー・ファンルー)と子どもを持って家庭を築きたいと願い、同じく子どもを望む男性カップルのチャールズ(蔭山征彦)とティム(ダニエル・ツァイ)と共に、ロンドンで妊活共同生活を始めていました。愛する人との幸せな暮らし。男性カップルと女性カップルが共同で挑んだ、ちょっぴりユーモラスな妊活を経て、待望の妊娠となったのですが、なぜ彼女は、ひとり台湾へ戻ることになったのか…。
この男性カップルのチャールズ役を好演したのが、日本人俳優の蔭山征彦さんです。

蔭山さんは16歳から舞台演劇の勉強を始め、亜細亜大学在学中、北京・中央戯劇学院に留学。2000年には台湾・政治大学言語(語学)センターに留学し、俳優活動を始め、台湾のドラマや映画に出演。2008年には映画『海角七号 君想う国境の南』でナレーター、2014年の映画『KANO 1931~海の向こうの甲子園』では、俳優として出演しただけでなく、若手の演技指導や演出補などでも活躍しました。

2015年には蔭山さんが書いた脚本『念念』が台湾映画界の大御所シルヴィア・チャンさんの目に止まり、脚本家としてデビュー。香港電影評論学会の最優秀脚本賞を受賞するなど、マルチな才能を発揮しています。
今年5月、台北駐日経済文化代表処台湾文化センターが主催する「2019 台湾映画上映&トークイベント 台湾映画の“いま”~オリジナリティと未来へ向けて」というイベントで、この『念念』が上映されました。

上映後には、台湾映画コーディネーターの江口洋子さんがゲストとして招かれた蔭山さんにインタビューする形式のトークイベントがあり、この二つの映画に対する蔭山さんの思いや、シルヴィア・チャンさんとの心に残るエピソードに、観客も大いに盛り上がったのですが、ナビでは後日、蔭山さんに単独インタビューを実施!蔭山さんの魅力を深く掘り下げてみました~!

離れて暮らす家族への思いが作品にも影響

――『念念』を拝見し、とても心に響きました。先日のトークイベントで『念念』は思慕がテーマだとおっしゃっていましたが、特に親やきょうだいへの思いにスポットが当たっていますよね。そういった「家族」というものに注目された理由を教えてください。
恋愛ものとかを書きたいなと思うんですけど、思いつくものが全部家族になっちゃうんです。なんでだろうって考えたとき、やっぱり海外に長く住んでいて、ずっと家族と離れているからかなって。僕、最初はアメリカで、それから北京に行って、さらに台湾に来ているので、二十歳を過ぎてからずっと実家にいないんです。それに、若い頃はちょっとヤンチャしていたので、親にすごく迷惑をかけたという思いもあって…。

親はいい意味で放任主義というか、やりたいことはやれ、そのかわり何かあっても自分でケツを拭けという教育方針だったので、家庭の事情でやりたいことがやれないってことはなかったんです。だからすごく、自分だけのために四十数年間生きてきちゃったなと思うんですよね。

30代後半ぐらいからかな、なんかこう、親に対する思いがちょっと変わってきて。ふと感じるときってあるじゃないですか、「あぁ、歳とったな、親」っていう。そういうふとした瞬間に思うんです。もしもう一回人生をやり直せるんだったら、こうしてあげたかったなぁと。そういう思いはありますね。
もう一つは、やっぱり「家族の絆」です。僕には弟がいるんですけど、正直、あんまり仲が良くなかったんですよ。まあ、今はそんなことないんですけど。それで、本当は兄と弟の話を書きたくて、でも、あまりにもリアルで、客観的な目で見られないと思って、妹に変えたんです。

そんなふうに、家族をすごく意識するようになってから、考える話が家族の愛みたいなものになっていったなと思います。
――その深い思いが脚本に伝わるからこそ、観る側の心にもしみじみとした感動が残るのですね。この脚本を書かれたことで、蔭山さんの思いに何か変化があったりしましたか。

もちろん!素晴らしいスタッフと、素晴らしい俳優陣によって、僕が思い描いていたものが映像化されたときに、僕自身もすごくグッときました。

シルヴィア・チャンさんはあれほどの大物監督なのに、脚本をちょっと変えるにも、ここをこういうふうに変えたいんだけどってわざわざ電話してきてくれたり、どういう思いでこのセリフを言っているのかって、ちゃんと僕の考えを聞いてくれたりして、僕の思いというものをすごく尊重してくれたんです。だから、僕もある意味、とても勉強になりました。

未来へつながっていく幸せとは

画像提供:オンリー・ハーツ/GOLD FINGER

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――9月に公開される『バオバオ フツウの家族』では、赤ちゃんが生まれることで新しい家族ができていくという、「未来の家族」が一つのテーマになっていますが、蔭山さんご自身は未来の家族というものにどんな思いをもっていらっしゃいますか。

これまでは、10年後、20年後の自分って考えたとき、思い描くのは仕事のことばかりだったんですよ。10年後の自分はこうでありたい、そのためには今、何をしなければならないかって、常に仕事中心に考えていて…。
でも、実は数年前に父親が倒れて、介護状態になってしまったんです。それからやっぱり、今後、自分一人でどうしていくのかって考えるようになって。というのも、親父は2ヵ月ぐらい意識不明でICUにいたんですけど、その隣のベッドに寝ていたのが若い男の人で、ベッド脇に書かれた年齢を見たら、僕とほぼ同じ年齢だったんですよ。

それで、ある日、ちっちゃい女の子と若いお母さんがICU専用の待合室にいて、「今日、パパとおしゃべりできる?」「できるわよ、パパ、ちゃんと聞こえているんだから」って話していたんです。そのあと、その子が隣のベッドで、「ねえ、パパ、聞いてる?」とかって話しかけていて、それを見た瞬間、ちょっと何とも言えない気持ちになってしまって…。

あぁ、自分は今まで仕事のことだけを考えて、好き勝手に生きてきたけれど、でも、そういう部分での自分の未来の幸せっていうのを、これからは考えていかなきゃいけないかなって。
画像提供:オンリー・ハーツ/GOLD FINGER

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だから、この『バオバオ』でも、「10年後も、二人がいい関係でいたい。幸せでいたい。ただそれだけ」というようなセリフがあるんですけど、あれは僕が書いたんです。チャールズとティムが山の中にいて、雨が降ってきて…という場面なんですけど、本当はもっとライトなシーンだったんですよ。

でもやっぱり、LGBTってことで内面にさまざまな思いを抱えている人たちが世の中にはいっぱいいて、そういう人たちが観て、共感してもらえるようなセリフが一言でも欲しいなと思って、監督にお願いして入れてもらったんです。
――そうだったんですね。そんなふうに、役者として出ているときでも、やはり脚本家としての目も持ち続けていらっしゃるんですね。ご自身が演じる側のときと、脚本家として向き合うときとでは、何か気持ちの違いがあったりしますか。
コントロールできる範囲っていうのは全然違いますね。脚本は、一から自分の空想の世界じゃないですか。僕はできるだけフィールドワークに行くようにしているのですが、あるロケーションに行ったときに、そこから物語が生まれることが多いんです。こんなシーンがあったらおもしろいなというイメージが沸いて、そこからだんだん物語の外郭みたいなものが浮かんできて…。そういうふうに、全体を一から作っていくのと、与えられたものを演じる俳優とでは、やっぱりだいぶ違いますね。

ある人が、脚本家と監督っていうのは船や飛行機の設計士で、現場の俳優やスタッフは、それを操縦する人だっていう言い方をしていたんですが、まさにそうだな、と。だから、両方とも楽しいんですけど、その楽しさの種類はまったく別のものですね。僕、いろんな事をやりたいなって思う人なんですよ。だって、人生一回きりじゃないですか。

俳優だけじゃなくて、脚本家をやることによって、相互的にいい影響をもたらすのは間違いないんです。脚本を書くときも、ここの場面で、このセリフをこういうふうに言ったら、きっとわかってもらえるだろうなとかって、そういう細かいところまで考えられるのがすごく好きですね。

映画にかける熱い思い

――今回は同性愛者の役を演じるということで、難しい面もあったと思いますが…。

僕はそこまで苦ではなかったですね。人間って、両方持っていると思うんですよ。僕にも少女のような一面ってきっとあると思うし、逆もそうだと思う。

実際、友だちにいろいろと聞いてみたんですけど、同性愛でよく男役、女役っていうじゃないですか。実はあれ、異性愛者の人が勝手に想像しているだけなんです。それを聞いて、たしかにそうかもしれないって。

よくゲイバーとかで、すごく女っぽく振る舞ったりしゃべったりしている人たちを見て、先入観で勝手に女役とかって思ったりしますけど、でも、その人たちが普段どうしているかはわからないですよね。このチャールズって役も、普段は男として普通に仕事をしているわけだし。ただ、ティムの前でだけは、やっぱり愛されたいっていう思いがあるからこそ、少女というか、女性らしい一面を出すんだろうな、と。そういう意識で演じました。
画像提供:オンリー・ハーツ/GOLD FINGER

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――先日のトークイベントで、魂をこめて仕事をしているとおっしゃっていたのが、とても印象的でした。

そうですね。特に映画って、ずっと残るものですから。僕はテレビの仕事もやるんですけど、やっぱり映画にはロマンがある。だって、テレビだったら今日、こんなふうにインタビューに呼ばれたりしないじゃないですか。それに、各国の映画祭で上映されれば、世界中の人たちにも観てもらえる。そこが僕、ずっと映画をやっていきたいと思うところでもあるんですけど。
だからこそやっぱり、一生残るものだから、全力でやるのは当たり前だと思っています。どうしても、後悔っていうのは出てきちゃうんですよ。どんな役者さんでも、100%満足ってことはないと思うんです。実際に完成品を観て、あのときあぁすればよかったとか、あっちのテイクのほうがよかったのに、どうしてこのテイクを使ったんだろうとか。だからこそ、どれを使ってもらってもいいように、毎テイク、全力でやらなきゃいけないと思うんです。

それに、相互作用というか、そういう熱いもの、魂を持っている俳優さんっていうのは、やっぱり一緒にやると、こっちも引き出してもらうものがあるんですよね。だから、常に全力で、魂をこめてやっているつもりです。

――今日のお話からも、スクリーンからも、それがすごく伝わってきます。

蔭山さんもよく行くオススメスポットとは

――最後に、台湾に長く住んでいらっしゃる蔭山さんが、台北ナビの読者に特にオススメしたいスポットを教えていただけますか。
僕も友だちが台北に遊びに来たりするんですが、連れていって喜ばれるのはエビ釣りです。釣って、その場で塩をつけて、焼いて食べてって、ちょっとしたエンターテインメントじゃないですか。ビールでも買って、釣ったエビ食べながら飲んだりして、すごく喜ばれますね。そういえば、岩井俊二さんも台湾に来たときに、一人でぶらっとエビ釣りに行くらしいですよ。

僕はいつも故宮の奥の、外双渓っていうところに行くんです。川沿いに何軒かエビ釣り場が並んでいて…。台北の街中にもありますが、やっぱり隣がビルだと感じ出ないじゃないですか。ああいうのって、雰囲気も込みだと思うので。

あとは、象山。象山の上から見た夜景とか台北101とか、きれいですよね。

僕、思うんですけど、すごく高い場所から見下ろすと、景色が全部平面に見えちゃう。街が立体に見えないんです。その点、象山は高さがちょうどいいんですよね。ま、ちょっと歩かなきゃいけない、山登りみたいになっちゃいますけど。

でも、エビ釣りと象山、この二つは絶対にオススメします。

――エビ釣りは、最高でどのくらい釣ったことがありますか。

10匹ぐらいかな。3時間で。だいたい皆、3時間ぐらいやるんですよ。

――10匹って結構すごいですよ!

あれ、意外と難しいんですよね。コツがいるんです。ベテランの人たちはマイ竿とか持っていたりして。すごい、この人たち、ほぼ毎日来てるんじゃないかっていう(笑) で、そういう人を観察するんですよ。どのタイミングで竿をあげているのかとかって。

でもあれも、和気あいあいと、友だちと横に並んで竿たらしてっていう、それがいいんですよね。たしかにエビも釣りたいんだけど、ベラベラとくだらない話をしながらやるっていう。それが僕はすごく好きです。
――今日は貴重なお話をたくさん聞かせていただき、本当にありがとうございました。

蔭山さんの魅力を、ぜひスクリーンで!

ナビのどんな質問にも、真剣な眼差しで答えてくれた蔭山さん。落ちついた語り口調の中にも映画や仕事に対する熱い思いがにじみ出ていて、ナビも思わず引き込まれました。また、家族に対する思いからは、蔭山さんの優しさが感じられ、ジーンとしました。

そんな蔭山さんが魂をこめて演じる『バオバオ フツウの家族』。性別を超えた深い愛情物語が、観る人それぞれの思いに呼応して、さまざまな感動を味わわせてくれるはずです。ぜひスクリーンでご覧ください!

以上、台北ナビがお届けしました。

作品情報

『バオバオ フツウの家族』

9月28日(土)新宿 K’s cinema他 順次公開

監督:シエ・グアンチェン(第1回長編監督作)
出演:エミー・レイズ、クー・ファンルー、蔭山征彦、ツァイ・リーユン、ヤン・ズーイ

2018年/台湾/97分/1:1.85/原題:親愛的卵男日記 英題:BAOBAO

配給:オンリー・ハーツ/GOLD FINGER
©Darren Culture & Creativity Co.,Ltd.

上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。

記事登録日:2019-09-19

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