台湾に残るかけがえのない美しさを描いたこの映画の魅力を、たっぷりとお伝えします!
©一期一會影像製作有限公司
上映会の発起人である野嶋剛氏(右)と鄭有傑監督
こんにちは、台北ナビです。
去る6月24日(金)、東京・虎ノ門の台北駐日経済文化代表処台湾文化センターで、台湾映画『太陽の子』(原題:太陽的孩子)の上映会が行われました。
先住民族・アミ族の村を舞台にしたこの映画は、2015年に上映され、台湾社会に感動を巻き起こしました。
当時、台湾の映画館でこの映画を見たジャーナリストの野嶋剛氏は、その完成度の高さと普遍的で大切なメッセージに心を打たれ、日本での上映を心待ちにしていたそうです。
ところが、半年以上が過ぎても日本上映の動きはなく、この作品が埋もれてしまうことを危惧した野嶋さんは、自ら上映に向けて動き出しました。
直接、共同監督の一人である鄭有傑(チェン・ヨウチェ)監督を訪ね、その熱い思いを伝えて非営利の上映権を授権。
そして、「台湾映画同好会」をはじめとするたくさんの人たちの協力を得て、今回の初上映に漕ぎつけたのです。
実話をもとにした、家族と故郷の再生物語
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この映画は、もう一人の共同監督である勅嗄・舒米(レカル・スミ)監督の母親が、伝統の米「海稲米」を復活させる様子を撮影したドキュメンタリー作品がベースになっています。
台湾先住民族・アミ族の女性パナイは、家族を養うために故郷を離れ、台北でジャーナリストとして働いていました。
ところが、台湾の東海岸・花蓮の港口で子どもたちと一緒に暮らしていたおじいさん(パナイの父親)が、病に倒れてしまいます。
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故郷に戻ったパナイが目にしたのは、水路が枯れて荒れ果てた水田と、そこに大型ホテルを建てて観光収入を得ようと考える郷長ら開発推進派の人々、そして開発への期待と伝統の土地を失う恐れとの間で揺れる村民たちの姿でした。
パナイ自身も、台北に残してきた仕事と、母親と暮らしたいと願う子どもたちとの狭間で悩みます。
でも、先祖代々受け継いできた土地を何としても守り抜こうとするおじいさんの強い決意と行動を見て、もう一度故郷に伝統の米「海稲米」を復活させる決心をするのでした……。
ナビがこの映画を見てまず心を打たれたのは、その景色の美しさでした。
真っ青な海、豊かに揺れる緑の稲穂、そして慎ましやかな村の人たちの暮らし。
そこには、合理化された都会の暮らしにはない素朴さと優しさが溢れていました。
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パナイの子どもたち、ナカウとセラが、悩みながらも成長していく姿にも感動しました。
つぶらな瞳で母親に甘えるだけだったセラが、先祖を敬うおじいさんの気持ちを受け止め、家族を守っていくという決意を抱くようになる。
自分に自信をもてなかったナカウが、陸上の才能に目覚め、それをさらに伸ばすために家族と離れる決心をする。
彼らが未来へと向かっていく姿に、眩しいほどの力強さを感じました。
また、ホテル用地の売買を進める不動産屋のションシオン。
パナイにほのかな恋心を抱く彼のコミカルな行動に、会場からは笑い声も上がりました。
シリアスなテーマにもかかわらず、スクリーンから温かさや笑いが伝わってくる。
それが台湾映画の醍醐味なのではないでしょうか。
「走る女性が好きなんです(笑)」(by チェン監督)
上映会のあと、野嶋さんが聞き手となって、チェン監督とのトークショーが行われました。
――撮影は港口の集落で行われたそうですが、村の人たちの協力を得るために苦労したことは?
お酒をたくさん飲みました(笑)
スタッフの半分くらいは外部の人間だったので、まずは信頼を得るために、コミュニケーションに時間をかけました。
それから、撮影で村の生活を乱さないように、たとえば普通なら車や人を通行止めにして撮影しますが、今回は普段通りの生活の中でカメラを回しました。
だから、撮影にはすごく時間がかかりました。
徐詣帆(シュー・イーファン)演じるションシオン
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――不動産屋のションシオンも重要な役どころですよね。
彼は村の土地を売ろうとしながらも、パナイと一緒に農地復活を手伝ったりして、彼自身も迷っているように見えます。
彼の役割についてはどうお考えですか?
まず、悪役ではない。この映画に悪役はいないんです。
実際、彼のような人はたくさんいます。伝統をお金に換えるような…。
でもそれは、村の人を守るためでもあるんですね。
また、彼は村の土地を売る立場だけれど、同時に村の一員でもある。
だから、水路を修理するというのは村全体の仕事なので、彼も一緒にやっているんです。
(野嶋さん)ションシオンはパナイのことが好き、なんですよね?
そうです。ゾッコンです(笑)
だから、失恋した彼が悲しんで村を去るシーンを撮ろうかと思いましたが、そうするとこのエンディングにもっていけないので、そこはあえて皆さんのご想像にお任せしようと…。
――2008年に公開されたチェン監督の映画『ヤンヤン』(原題:陽陽)も、走る女性(陸上選手)が主人公ですよね。
走る女性がお好きなんですか?
弁解のしようがない(笑)
走る女の子が好きなヘンなおじさんと思われても仕方がない(爆笑)
このナカウ役の子はもともと走るのが得意だったんですね。
それで、撮影中に自信をなくしてしまった彼女に自信を取り戻させるため、陸上のシーンを付け加えました。
それと、撮影していないときに彼女が走っている姿がとても美しかったので、みんなにも見せたいと思ったんです。
港口の水田に立つレカル監督
――この映画はレカル監督との共同作品ですが、共同監督の難しさなどはありませんでしたか?
そうですね、意見が食い違ったときなどは真剣に討論しました。
でも、僕一人だったら、よその人が来て、外から撮った映画になってしまったと思います。
たとえばハリウッド映画が描く日本人の姿がステレオタイプになりがちなのと同じように、僕が想像した先住民像の影響が出てしまう。
だから、特にドキュメンタリーっぽい部分はレカル監督の持ち味を生かすというように、役割をシェアしました。
二人とも、この映画をいいものにしたいという気持ちが強かったので、監督としてのエゴがぶつかり合うようなことはありませんでした。
――チェン監督は昔から先住民を撮りたいと思っていたんですよね。
なぜですか?
先住民は美しいからです。
大学生の頃、先住民作家のシャマン・ラポガンの小説を読んで、衝撃を受けました。
彼は台北の大学で学んだエリートだったけれど、30歳になってから故郷(タオ族)に戻って、それからタオの男になろうと学び始めたんですね。
彼の描く台湾は、僕のまったく知らない台湾だった。
それで、ずっとそういうものを撮りたいと思っていたら、2013年にレカウ監督との出会いがあったんです。
その後、シャマン・ラポガンの短編を映像化する機会にも恵まれました。
――最後に、監督がこの映画を見た人に伝えたいこと、感じ取ってほしいことを教えてください。
本当に大切なものは、もろいものです。
それは目に見えない、形にできないこともあるし、いつ失われてもおかしくない。
たとえば、この映画の中にあるすべてのものが、10年後、20年後にもあるとは限らない。
その大切なものというのは人によって違うだろうけれど、そのそれぞれの大切なものを、ぜひ守っていってほしいと思います。
チェン監督のプライベートも暴露!
トークショーが終わると、今度は野嶋さんがスライドを使って、この映画の舞台である港口集落の様子を紹介。
飛魚が名産物で、その干物や飛魚ソーセージなどがおいしいそうです。
野嶋さんは実際に港口を訪れ、集落の中をくまなく歩き回ったそうですが、そうすると、この映画の登場人物にバッタリ出会ったりするんだそう。
それもそのはず、実はこの映画は、ナカウやセラなどの子役を含め、多くの登場人物がこの村出身の素人なんです。
パナイの父親という重要な役回りを演じたのも、実際に村の「頭目」(長老のような存在)を務めたことのあるおじいさんで、だからこそ、先祖への思いを語る言葉にじんわりと胸にしみるような重みがあったんですね。
工事を阻止しようと座り込みをする老女役のおばあさんも、彼女自身が行政に土地を奪われそうになった経験があるんだそう。
野嶋さんは実際にこの集落を訪れたことで、この映画の魅力、そのリアルさの理由がよくわかった、と言います。
また、スライドの中には、チェン監督と可愛い奥様、そして3人のお子さんたちがドライブする楽し気なプライベート写真も。
ところが実は、その5分後、なんと衝突事故を起こして大変な騒ぎになってしまったんだとか。
そんな暴露話も飛び出し、会場は爆笑の渦に包まれました。
※「上映会レポート・その2 鄭有傑監督インタビュー」に続きます。
正式イベント名:台北駐日経済文化代表処 台湾文化センター虎ノ門新設1周年記念行事「台湾カルチャーフェスティバル」【映画】台湾映画上映会③『太陽の子』
共催:台北駐日経済文化代表処台湾文化センター、台湾映画同好会
協力:一期一會影像製作有限公司、野嶋 剛
上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。
記事登録日:2016-07-15