【日台カップル】義母との距離が近すぎる国に嫁いだ女~第3話~

「玄関の前に盛り塩が」…義母のお節介に嫌気の差した妻の逆襲

■これまでのあらすじ

遥香は、ワーホリ中に知り合った建宏(ジェンホン)と結婚。台北での新生活を開始。すると建宏が、母親の麗華(リーファ)に合鍵を渡してしまう。麗華は風水に傾倒し、毎日のように部屋を訪れては、運気を上げるための荷物を運びこむ。遥香にとって、思い描いていた新婚生活とまるで違う状況。部屋が占領されて行く様子に、苛立ちを募らせていく……。

前回:「完璧で無駄なものは何ひとつない」…義母の言葉に芽生える妻の敵対心

1話目はこちら:台湾での結婚生活が始まったが…義母の風水鑑定に翻弄される妻の憂い

「玄関の前に盛り塩が」…義母のお節介に嫌気の差した妻の逆襲

「おはよう、遥香」

いつもよりも少し遅く、建宏が寝室から出てきた。

台北での新生活が始まって初めての土曜日。

休日の穏やかな陽気ではあったが、遥香の気分は晴れやかとは言えない。
建宏に対して、「おはよう」と低いトーンで素っ気なく返してしまう。

「何か飲む?お茶かコーヒーか」

「ああ。じゃあ、コーヒーをもらおうかな」

建宏はトイレに向かった。

遥香は、「はぁ」とひとつ溜め息をつく。

ここ最近の麗華との遣り取りで、心身ともに疲弊してしまっていた。

カップを用意し、『CAMA COFFEE ROASTERS 豆留文青』で買っていたコーヒーを準備していると、玄関のほうから建宏の声が聞こえてきた。
「なあ、遥香。こんなところに、鏡あったっけ?」

玄関のドアから正面の位置に設置してある小さな鏡に、違和感を抱いたようだった。
「母さんが置いたのかな……」

「ううん。それ、私が置いたの」

「ええ?でも、この位置に鏡を置くのって、あんまり良くないんじゃなかったか?」

「そうなんだけど……。だって、部屋にはお義母さんのものばっかり増えて、私の好きなものが置けないから……」

「そういえば、『玄関の前に塩が置いてあった』って母さんから連絡が入ってたけど、それも遥香がやったの?」
遥香は黙って頷いた。

麗華の行動に嫌気の差した遥香は、一矢報いたいという思いが芽生えた。

インターネットで風水について検索をかけ、麗華に抵抗を示すのに相応しい行動を調べた。

にわか仕込みの風水で対抗したのだ。

ほかにも、ドライフラワーを飾ったり、未完成のジグソーパズルを置いてみたりしたものの、麗華は意に介す様子もなく片付け、排除されてしまった。
「私たちのフィギュアも捨てられそうになったんだよ?」

「だからって、自分たちの運気を下げる必要ないだろう」

「それに、私のブレスレットもなくなっちゃったんだから。きっと捨てられたんだと思う。ほら、大学のときに優実にもらって、ずっと大事に使ってたやつ」

「ああ……」

「やっぱり私、我慢できない……」

「……」

「こっちは、日本よりも家族愛が強いっていうのは聞いてたけど、合鍵使って勝手に入ってきて、ゴチャゴチャ動き回られるのはキツイよ」

2人のあいだに気まずい空気が流れたところで、インターホンが鳴った。

「あれ?母さんだ……」

モニターを覗いた建宏が、不思議そうに遥香のほうを見た。

「合鍵を使って勝手に入ってくるんじゃなかったのか?」

遥香は口を閉ざして少し沈黙したのち、真相を打ち明けた。

「私が、鍵を変えたの……」

「ええ……?」

「お義母さんが勝手に入ってくるのがもう我慢できなくて、昨日業者に依頼して、鍵を交換してもらったの」
「おいおい、そこまでする必要あるか……?」

建宏は呆れたように言うと、玄関に向かった。

そして、麗華を伴いリビングに戻ってくる。

「遥香さん。鍵を変えたって、本当?」

麗華が心配そうに遥香の表情を窺う。

「なんで?最近の遥香さん、ちょっと変よ。どうしちゃったの……」

麗華が手を伸ばして体に触れようとするが、遥香はそれを遮るように首を横に振った。

「私は、変なんかじゃありません。変なのはお義母さんです。勝手に家にあがって、部屋のなかを引っ搔き回して。私は、お義母さんがいつ来るかわからないから、いっつも気を張っていなければいけないし……」

今まで抱えていた不満が、次々と口をつく。

「そんな……。家族じゃないの。全部、あなたたちの幸せを思ってしていることよ。迷惑をかけるようなこと、してないでしょう?」
遥香が、視線をキッと鋭くする。

「したじゃないですか」

麗華は何のことかと、首をかしげる。

「捨てたでしょう?私のブレスレット……」

遥香が、蟠りの発端ともなった事象を切り出し、問い詰めようとしたところで、建宏が割って入った。

「遥香、違うんだ」

2人が建宏に視線を向ける。
「それは、母さんじゃないんだ。ブレスレットを捨てたのは、俺なんだ……」

建宏は観念したように、事実を話し始めた。

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記事登録日:2025-09-10

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