【日台カップル】義母との距離が近すぎる国に嫁いだ女~第2話~

「完璧で無駄なものは何ひとつない」……義母の言葉に芽生える妻の敵対心

■これまでのあらすじ

遥香は、ワーホリを利用して台湾に留学。李建宏と出会い、3年の交際を経て結婚。台北で新生活を始めることに。そこには建宏の母、麗華の存在が強く影響していた。ひとり息子を溺愛し、傍に置いておきたいという意思を尊重したのだ。マンションに到着すると、すでに家具が大方揃えられているのに驚く。麗華が、傾倒している風水を基準に選んだものだった。遥香は、思い描いていた新婚生活とかけ離れた状況に、不安をおぼえる。

前回1話目はこちら:台湾での結婚生活が始まったが……義母の風水鑑定に翻弄される妻の憂い

「完璧で無駄なものは何ひとつない」……義母の言葉に芽生える妻の敵対心

画像提供:辻利茶舗

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「よし。これでだいたい片付いたかな」

遥香は部屋のなかを見回して、何度か頷いた。

台湾での新生活が始まって3日目。

昨日、一昨日と荷物の整理に追われ、ようやくひと段落がついた。

いったんソファに腰をおろし、「ふぅ」と息をつく。

テレビでは情報番組が流れ、最近流行のスイーツが映し出されていた。

「うわっ! 美味しそう!」
他にも『八時神仙草』のかき氷を紹介している。仙草ジュレの上に仙草のかき氷がこんもりと盛られ、さらにてっぺんには抹茶アイスがトッピング。清涼感にあふれる見た目に食欲がそそられた。

遥香は窓の外に目を向けた。

大好きな台湾料理店やスイーツ店が足を延ばせばすぐの場所にあるのだと思うと、俄かに胸が躍った。
すると、玄関のほうから物音が聞こえてきた。

遥香は一瞬身構えた。

―― えぇ……。なに……?何の音?

建宏は仕事に出ているはずだが……。

―― あっ!様子を見に来てくれたのかも!建宏はやさしいから……。

遥香が出迎えようと立ちあがったところで、玄関に通じる扉が開いた。
駈け寄ろうとしたが、思いがけない人物が現れハッと息をのむ。

「えっ……。お、お義母さん……?!」

姿を見せたのは、麗華だった。

「まあ、遥香さんたら、そんなに驚いて」

麗華はいたずらっぽい笑みを浮かべながら、遠慮する素振りもなく中へと入ってきた。両手に抱えた荷物をおろし、部屋を見渡す。

「あら、ずいぶんキレイに片付いたじゃない」

「今、掃除をしていたところで…」

「休憩中だった? ごめんなさいね」

「すぐ、お茶を用意します……」

「ううん、いいのいいの。気を遣わないで。用事を済ませたらすぐに帰るから」

麗華は持ってきたバッグを開けると、次々と中のものを取り出し、部屋の各所に運び始めた。

―― そうだった。鍵を渡してたんだった……。

初日に建宏が合鍵を渡していたのを思い出した。
―― 噓でしょう……。緊急用とかじゃなかったの……?

まさか、普段から鍵を使用して入ってくるとは思わず、遥香は驚きを隠せない。まるで自分の家かのように動き回る麗華の姿を、呆気にとられながら眺めていた。

テーブルには花の生けられた花瓶、チェストの上には動物をかたどった木彫りの置物が飾られ、部屋が麗華の荷物で浸食されていくのを、ただ黙って見ているしかなかった。

「ほら、見てちょうだい。遥香さん」

麗華は大事そうに壺のようなものと球体の石を抱えている。

「水晶……ですか?」

「そう。美しいでしょう?知り合いの先生に譲っていただいたの。息子夫婦の家に置くためだと伝えたら、それはもう喜んでくれていたわ」
「はぁ……」

「玄関に飾っておくわね。これで、揃えるべきものはほぼすべて揃った。気に一切のよどみがないわ。気がスムーズに流れていく。完璧で無駄なものは何ひとつない部屋よ」

麗華の自信たっぷりの口調に、「これ以上余計なものを増やすな」と釘を刺されたような気分になった。

麗華を見送ると、嵐が去ったあとのような安堵感に包まれた。

だが、玄関のシューズボックスの上にある麗華の置き土産が目に入り、また気が重くなる。

―― ちょっとごついんだよなぁ……。

新婚夫婦の新生活に相応しいとは到底思えないデザインである。

―― あれ? フィギュアがない……。

同じくシューズボックスの上に並べて置いてあったフィギュアがなくなっていた。

建宏とともに、好きな日本のアニメのものだった。2体並べて飾っていたのだが……。

リビングに戻ると、ゴミ箱の隣にそのフィギュアが置いてあるのを見つけた。

まるで、「捨てろ」と指示しているかのように。

拾い上げると、チェストの上の木彫りの置物が目に入る。

―― あれ?ブレスレットもなくなってる!

置物の並びに置いてあったはずだった。
朝は確かにあったはずだが、周辺の探しても見当たらない。

何年も前に贈られたプレゼントであり、ずっと大事にしていたものである。

麗華がどこかに移動させたに違いない。

もしくは捨ててしまったか……。

―― 酷い、酷いよ……。

遥香はグッと強く奥歯をかんだ。
そして、麗華の言葉が頭に浮かぶ。

「完璧で無駄なものは何ひとつない部屋」

風水の観点からするとその通りなのかもしれない。

だが、ここで暮らしている者の目線で言えば間違っている。

明らかにひとつ、無駄なものがある。

快適な生活を妨げる存在。

それは、麗華である……と。

遥香は確信を得たように、深く頷いた。

上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。

記事登録日:2025-09-04

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