11/30(土)公開!映画『台湾、街かどの人形劇』、楊力州監督独占インタビュー

台湾の人形師の活躍を10年に渡って追ったドキュメンタリー作品の裏側に迫りました

(C)Backstage Studio Co., Ltd.

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こんにちは、台北ナビです。

皆さんは台湾の布袋戯をご存知でしょうか。布袋戯とは台湾伝統芸能の一つで、布袋でできた人形衣装の中に手を入れて操る人形劇のことです。日本でも大人気の日台合作の武俠人形劇ファンタジー「Thunderbolt Fantasy」シリーズでもおなじみですよね。

今回紹介するのは、台湾の人間国宝であり、人形に生命を吹き込むべく操る伝統的な布袋戯の人形師、陳錫煌(チェン・シーホァン)を10年間追ったドキュメンタリー映画『台湾、街かどの人形劇』(原題:紅盒子-Father)です。

映画『台湾、街かどの人形劇』で描かれる布袋戯の今と、一生のライバルである父との物語

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本作は、陳錫煌によって惜しみなく披露される布袋戯の見事な技やその伝承に尽力する姿に魅了されるばかりではありません。彼の実の父親であり、師匠でもあった布袋戯の巨匠・李天禄(リ・ティエンルー)との父と子の物語、布袋戯のこれまでの背景や出来事、そしていま伝統布袋戯が台湾語と共に消えつつある現状などを映し出していきます。

もちろん陳錫煌による布袋戯の上演シーンもあり圧巻。ナビは試写室で思わず拍手しそうになりました!
楊力州監督

楊力州監督

監督は、金馬奨最優秀ドキュメンタリー賞を受賞した『奇跡な夏(原題:奇蹟的夏天)』(06)や、『明日へのダック(原題:拔一條河)』(13)、金馬奨50周年記念作品『あの頃、この時(原題:我們的那時此刻)』(16)などを手がける、台湾を代表するドキュメンタリー映画作家の楊力州(ヤン・リージョウ)です。

来日されたヤン監督に『台湾、街かどの人形劇』についてお話をお伺いしました。
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文化の消滅を記録するには10年ではむしろ短くて、50年100年かけないと、その過程は記録できないと思います

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——何度も聞かれていることと思いますが、布袋戯を題材にしたきっかけを教えてください。

私は今年で50歳になりますが、布袋戯は自分の子供の頃の思い出の一つです。この歳になって伝統布袋戯が消滅されつつあることを知り、過去にさかのぼって記録したいという気持ちになりました。そして、なぜいま消滅しかけているのかを自分でも理解したかった、というのがメディアによく聞かれる時の回答です。

芸術や人間像の美しさを記録することがドキュメンタリー映画監督としての私の仕事ですが、布袋戯を撮っていくうちに、その美しさが抑圧によって失われていくことに気づき、それに対する怒りの感情も記録したかった。布袋戯がどういう圧力で消えていったのかということを、自分の怒りの気持ちから記録したいという思いもありました。
——撮っていくうちに布袋戯のいろいろな問題や出来事に直面して広がり、10年が経ったのでしょうか。

そうです。でも10年かかっても、布袋戯の消滅の問題についてはまだ答えが出ていないように思います。

布袋戯の消滅は、政策による抑制で台湾語が制限されていた時期があり、言語とともに文化までもが消滅されていく……文化の消滅を記録するには10年ではむしろ短くて、50年100年かけないと、その過程は記録できないと思います。
——10年間、具体的にどのように撮影されていたのでしょうか。

まず、陳錫煌さんがイベントや舞台に出る時は、台湾はもちろん、海外へもすべて同行させていただきました。そして、10年間、週に1回必ず陳さんの家を訪ねました。でも、いつもカメラを回していたわけではなくて、80〜90%は一緒にお茶を飲んで話をしていました。

彼は、本当はとても寂しいお年寄りです。というのも、彼は本当に多くの素晴らしい記憶をお持ちでいながら、それを誰かに伝えることができないでいました。彼自身もそのことを結構心配していたので、話し相手も必要だったと思います。10年と言っても、私にとってはあっという間でした。陳さんは私の妻のお腹が大きくなるのも見てくれていたし、生まれた赤ちゃんを連れていって見せたこともあります。10歳になる娘は彼と本当に仲が良くて、彼と腕を組んで一緒に街を歩くほど仲良くなりました。
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言葉にできないということがその人の答え

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——10年間追い続けてこの映画として形にされたのは、監督の中で結論のようなものが出たということなのでしょうか。

布袋戯の技術面の撮影についてはいくら時間があっても足りないと思いましたが、10年というターンで撮影を終了させた理由の一つはまず、私が最も気にかけていた陳さんと彼の父・李天禄(リー・ティエンルー)の父と子の関係です。私がカメラを回している時に、陳さんに『もうこの世にはいない父親にいま話しかけたい言葉はありますか?』という質問を投げかけました。すると彼はすぐには答えられず、30秒間沈黙し続けました。その30秒の沈黙を見て、私の撮影はここで終了だなと思ったのです。なぜなら、言葉にできないということがその人の答え、つまり沈黙が答えで、それが父子関係に関する解釈なのだと思うようになりました。じゃあもう編集に入ろう、と。私は彼の父子関係について彼にずっと問い続けてきましたが、つまり“答えがない”ということ自体も答えなのだと思ったからです。

もう一つのきっかけは、陳さんの弟は、布袋戯の巨匠である父の名を継いで劇団を作りましたが、撮影の途中、陳さんはあえて父の名前を出さずに、自分の名前で劇団を設立しました。それを見て、陳さんは自分自身を見つけて自分を確立したんだ、自分のアイデンティティを取り戻したんだと思い、じゃあこのストーリーはここで終わりだなと思ったのです。
——陳錫煌さんは口数は多くないですが、一つ一つの言葉がシンプルなのにとても的確でした。普段もそういう方ですか?

普段もとても口数の少ない方です。なぜなら彼の成長過程において、彼の周囲の人々は彼ではなくて、彼の父・李天禄にしか話しかけなかったから。彼に話しかける人は多くなかったのです。

私は10年間、彼のそばで撮影をしていて、あることに気付きました。彼が一番言葉数多く話しかけている相手は、あの赤い箱の中の神様(戯劇の神・田都元帥)です。毎日朝と晩に必ずお線香をあげるのですが、その時に、『あの人が病気になってしまったので一刻も早く回復させてあげて』とか、『海外に行くんだけれども一緒に行ってくれますか』というふうに話しかけます。それを聞いていて、彼は田都元帥を神様として祀ってはいるものの、きっと自分の父親として、父親との会話をしているのではないかと思いました。
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——完成した映画をご覧になった陳錫煌さんはどのようなことをお話されていましたか?

私が撮ってきたどの作品も正式に上映される前に必ず本人に見せるんですね。本来ドキュメンタリーとは、本人を誉め称えるものであるべきだとは自分でも思うんですけど、この作品は親子関係だけではなくて師弟関係も描いていて、真実を全部入れてしまったので、彼に見せたらどんな言葉が返ってくるのかと、とても緊張しました。

でも、映画を観終わったあと、彼から返ってきた言葉は予想外でした。“人間はいい部分もあるし良くない部分もある。それをすべて記録することは正しいことだ”と言われました。

布袋劇の伝承と師弟関係の変化

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——この映画を見て、伝統的な布袋戯は今後どのように継承されていくのだろうと考えさせられることを含めて、陳錫煌さんとお弟子さんの師弟関係も気になりました。劇中で、一番弟子の方は師匠である陳錫煌さんに対する思いや彼自身の本心も語っていましたが、陳錫煌さんは、一番弟子のこうした思いは出来上がった本編を見て初めて知ったのでしょうか。それとも、元々だいたいわかっていらしたのですか?

結論から言うと、陳さんは作品として完成したこの映画を見てから一番弟子の本当の気持ちを知りました。彼は自分でも気付かぬうちに、自分の父親の自分に対する態度をそっくりそのまま、しかも一番弟子にしていて、弟子を抑制していたということを、出来上がった映画を見てから初めて気が付いたのです。

実は、彼は2年間、一番弟子と全く会わなかったし連絡もとり合っていなかったのですが、なんとこの映画を見たら、2年ぶりに陳さんが私に「監督、(一番弟子の)舞台を見に行こう!どう?いいかい?」と言い、私はびっくりしまして。もちろん一緒に見に行きました。一番弟子はまさか自分の師匠が見に来てくれるとは思わずに、ものすごく感激していました。その時に撮った写真もあるんですよ。
——この映画が台湾で公開されて、布袋戯の伝承に関してとても大きな影響を与えたのではないでしょうか。

その通りです。しかも私にとって本当にうれしい動きとしては、政府と民間のそれぞれが、この布袋戯の伝承にさらにもっと力を入れるようになったことです。

政府は以前の3倍もの予算を出して布袋戯の伝承を支援するようになりました。また多くの大企業の経営者が私のところにきて、この素晴らしい文化の伝承をぜひとも小学生たちに見せたいから小学校で映画を上映してほしい、その費用は全額我々企業の方で出すので、という話もいただきました。
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布袋戯好きにオススメの台湾スポット

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——日本では「Thunderbolt Fantasy」シリーズをきっかけに台湾の布袋戯に興味を持っている人がたくさんいます。こうして布袋戯に興味を持った方たちが台湾に行った時に、伝統的な布袋戯の文化に触れたり知ったりすることができる、監督がおすすめするスポットがありましたら教えてください。

「台北にある京華城というデパートのすぐ隣に、台北偶戯館(臺北偶戲館)があります。毎週土曜日には陳錫煌さんが1日中ここにいて、直接彼に会えますし、来た人に布袋戯について教えています。写真を撮ってくださいって言ったら一緒に撮ってくれますよ。そして、布袋戯に興味があってもし彼に弟子入りしたいという方がいらっしゃったら、ぜひとも台湾に残っていただいて、彼の人形劇の技術を学んでほしいです。彼はいま何人か日本人の弟子もいるようですよ」

台北偶戯館(臺北偶戲館)
台北市松山區市民大道五段99號2樓
公式サイト(日本語)https://www.pact.taipei/include/jp_N1.html
最後の質問を恐縮しながらした時に「私自身も霹靂布袋劇は大好きですよ」と言い、快くとっておきのスポット情報まで教えてくださったヤン監督。『台湾、街かどの人形劇』は11月30日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開となります。ぜひスクリーンで台湾の伝統的な布袋戯の魅力を堪能してください!

以上、台北ナビ(小俣悦子)がお届けしました。

台湾、街かどの人形劇』(原題:紅盒子-Father)
監修:侯孝賢(ホウ・シャオシェン)
監督:楊力州(ヤン・リージョウ)
出演:陳錫煌(チェン・シーホァン)
提供:太秦・マクザム 配給・宣伝:太秦
2019年11月30日(土)より
ユーロスペースほか全国順次公開

【ユーロスペース劇場トークイベント】
11/30(土) 17:00回上映後 中村孝男/人形劇団ひとみ座代表
12/01(日) 14:20回上映後 山下一夫/慶應義塾大学理工学部准教授
12/07(土) 14:20回上映後 チャンチンホイ/布袋戲人形劇團 著微(チョビ) ※布袋戯実演あり
※イベント内容、登壇者は予告なく変更になる場合がございますので、ご了承ください。

【ユーロスペース初日初回プレゼント】
※ご来場者の方に先着順、数量限定
ご来場者の方に先着で、マスコットのユニコーンが可愛いタピオカショップWooHooTea(東京都板橋区仲宿63-7 )特製ドリンクプレゼント!
Twitter
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Instagram:
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上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。

記事登録日:2019-11-21

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