都市に住む原住民が集う教会(台中市)

華やかな歌や踊りで知られる台湾の原住民族。でも普段はいったいどう過ごしているのでしょうか。台中にある彼らの連合教会を訪ねました。

こんにちは、台北ナビです。台湾を訪れた方なら、誰でも一度は見たことがあるといっても過言ではない原住民の歌や踊り。すばらしいショーを見せてくれる一方、普段の様子はなかなか観光客にはわかりません。今回のナビは台中市にある原住民の聯合教会を訪ね、歌声や服装とともに皆さんの普段の生活や考えに触れてきました。 

やっぱりすごい歌声です




アーメイやビビアン・スーなど台湾の芸能界には原住民の血統をもつ歌手や俳優が少なくないのですが、でも原住民といっても皆が歌や踊りができるとは限らないはず、というナビの予想をくつがえす素晴らしい歌声が響いてきました。台中市の大里区にある「台湾基督長老教会 大里葡萄園教会」。時刻は日曜の夜8時。朝も礼拝がありますが、働いている人のために夜にも集会をしているそうです。
大里葡萄園教会の普段のようす 大里葡萄園教会の普段のようす

大里葡萄園教会の普段のようす

現在14部族と承認され、文化の保護や母語教育などの面でも制度が整えられてきた台湾の原住民族。こちらの教会では現在、ブヌン族、パイワン族、アミ族、セデック族、タイヤル族の人たちを中心に、台湾人、客家人などもいて、約50~80人が常時集会に参加しています。原住民の教会ということで、部族の言葉が話されているのでは、と思ったナビでしたが、複数の部族がいるので、こちらの共通語は中国語でした。

呼び方と民族の回復
日本統治時代には「台湾原住民」とされていましたが、国民党政府になり、山地人、山地同胞などと変遷。2000年、現在の「原住民族(イェンズューミンズー)」という呼び名になりました。また日本統治時代からの9部族という分類も、2001年以降、順次回復されて現在ではサオ、クバラン、タロコ、サキザヤ、セデック族を加えた14部族となっています。

変更する時には「先住民」という案もあったそうですが、中国語ではすでに滅びてしまった民族のようなイメージにもなるため、「元元から住んでいた」という意味でもとの「原住民」になったとか。とにかくその歌声の素晴らしさに圧倒されたナビ。皆さん、プロ並みに上手なんです。
音楽監督はパイワン族で作曲家の李音楽さん。名前からして音楽の申し子ですね。

音楽監督はパイワン族で作曲家の李音楽さん。名前からして音楽の申し子ですね。

ブヌン族のシンメイさんは歌唱と振り付け指導を担当。

ブヌン族のシンメイさんは歌唱と振り付け指導を担当。

教会にドラム? でも台湾の教会では普通なんだそう。

教会にドラム? でも台湾の教会では普通なんだそう。

日ごろから歌と踊りの練習は欠かせません 日ごろから歌と踊りの練習は欠かせません

日ごろから歌と踊りの練習は欠かせません

原住民と教会の関係って?

ブヌン族出身の牧師さん

ブヌン族出身の牧師さん



こちらの教会の牧師、全建生さんは、30年以上前から台中に出てきた原住民の福利厚生に力を尽くし、聯合教会を設立。台湾の921大地震の後は、出身地である南投県信義郷のブヌン族の教会に戻り、崩壊した教会堂の再建のため、合唱団を引きいて台湾の各地を訪問して寄付を集め、みごとに会堂を立て直したのだとか。その後、2010年に再び台中の地に戻り、現在の場所で聯合教会を再開したのです。


原住民にはクリスチャンが多いのですか?
「原住民人口の約80%という統計もありますが、私は教会に常時通っている割合はだいたい50%くらいだと思います。」

台湾の原住民というと、祖先崇拝とか伝統的な宗教のイメージがありますが、実はカソリックやプロテスタントといったキリスト教徒が多いんですね。台湾の全人口に対するキリスト教徒の割合は約5%と言われているので、これはずいぶん多いことになります。

牧師さんによると、日本統治時代に山地の原住民にキリスト教が浸透したそうで、ブヌン族ではカミサマ(神様)、セイレイ(聖霊)、フジンカイ(婦人会)など、教会用語の中にもたくさん日本語が残っているそうです。日本人としてはなんだか不思議な感じがします。
お父さんお母さんが歌や踊りの練習中、子どもたちは教会学校でお勉強。

お父さんお母さんが歌や踊りの練習中、子どもたちは教会学校でお勉強。

教会ではよく持ち寄り食事会もひらかれます

教会ではよく持ち寄り食事会もひらかれます


精神のよりどころとして
田舎から都市に働きにでてき人たちは、ともすると周囲になじめず、自分たちだけで酒を飲んだりして生活が荒れることも多いんだとか。牧師さんたちは家族みんなで教会に通って規律のある生活態度に戻り、貯金をして家を買うこともできるように勧めているそうです。聯合教会として大家族のように、だれかが持ってきた物を皆に分け合うのもこちらの教会の特徴みたい。 
これは山地にいる大きなカタツムリの料理

これは山地にいる大きなカタツムリの料理

これも猟でしとめた獲物の肉だそう。

これも猟でしとめた獲物の肉だそう。

バナナとドラゴンフルーツのサラダ

バナナとドラゴンフルーツのサラダ

普通のビーフンもありました。

普通のビーフンもありました。

誇りの民族衣装ファッション

みなさんご自慢の民族衣装で勢ぞろい

みなさんご自慢の民族衣装で勢ぞろい




ちょうど教会の合唱隊の皆さんがDVD作成のため、近くの小学校のグランドへ撮影に行くというので、ナビもついていきました。民族衣装がとってもステキ。めったにない機会なので、いろいろ詳しく聞いちゃいましたよ~。 



アミ族のユーメイさんとメイシェンさんは姉妹。ピンク系やカガミなどをつけて華やかです。海側に住むアミ族と山側に住むアミ族ではデザインが違うそうですが、個人的に着る衣装では、けっこう自由にアレンジしているそうです。
パイワン族のリーメイさん(左)とブヌン族のスーゼンさん(右)

パイワン族のリーメイさん(左)とブヌン族のスーゼンさん(右)

リーメイさんのスカート。特徴があるんです。

リーメイさんのスカート。特徴があるんです。

リーメイさんによると、パイワン族のデザインでは頭目の家系は人間をモチーフにした図柄に決まっているんだそう。でも若いときは他の人のように花などのきれいなデザインの服が着たかったんだとか。
どの部族でも、手仕事の刺繍やビーズで見事に飾られた正式な民族衣装は1~2万元以上もするそう。頭飾りなどの装飾品も合わせるとけっこうなお値段に。現在でも民族衣装専門の製作者がいるので、オーダーメイドするんですって。
イケメン男子のハオリン君はパイワン族勇士の衣装。マントは勇士の証なんだそう。ヒャッポタの刺繍がカッコイイ~。

イケメン男子のハオリン君はパイワン族勇士の衣装。マントは勇士の証なんだそう。ヒャッポタの刺繍がカッコイイ~。

これはパイワン族につたわる伝統の背負い袋。華やかな衣装とは違ってシンプル。無地でちっちゃいところがカワイイですね。

これはパイワン族につたわる伝統の背負い袋。華やかな衣装とは違ってシンプル。無地でちっちゃいところがカワイイですね。

パイワン族戦士の正装はスカートなんですって。

パイワン族戦士の正装はスカートなんですって。

リーメイさん提供の衣装をつけた牧師さんの娘エンツーさん

リーメイさん提供の衣装をつけた牧師さんの娘エンツーさん

代々伝わるこの頭飾りは骨董品。よくみると古い玉や昔の指輪など、とっても古いものがついていました。

代々伝わるこの頭飾りは骨董品。よくみると古い玉や昔の指輪など、とっても古いものがついていました。

民族衣装って台湾の物価に比べて、お値段的にはけっして安いものではないのですが、全体的に皆さん、TPOに会わせて改良式や正式のものなど何種類もの衣装をもっているみたい。生地によって夏用とか冬用とかもあり、着るのは冠婚葬祭や自分のアイデンティティを表したい時だそうで、なんだか日本人がキモノを着る感覚にも似ているな~と思っちゃいました。

自分の部族についてどう思いますか?



現在台湾で大ヒット中の映画「セデック・バレ」は、日本統治時代に起こった原住民の反抗事件「霧社事件」がテーマ。でも実は台湾でセデック族というのはあまり知られていません。セデック族出身のイーフォンさんに聞いてみました。
以前はセデック族という名前はなかったですね?
「はい。もともと独立した部族なのですが、時の政府の政治的方針でタイヤル族の中に組み込まれていました。そして最近になってまた政府の政治的方針で、一つの部族として認証されたんです。私の故郷は花蓮で、部落には200~300人が暮らしています。」

映画をみましたか?
「実はまだ見ていないんです。でも映画を通して自分の部族の名前が世界中に知られたことはとても光栄に思います。」

今着ているのはセデック族の衣装ですね。
「はい、でも改良型です。伝統的な衣装はとっても着付けが難しいので、私はこういうタイプのものをよく着ます。色は米白(ベージュ)が伝統色ですが、他の色のも持っています。」
明るいご主人のウンリンさん

明るいご主人のウンリンさん



イーフォンさんのご主人はブヌン族。子どもたちのアイデンティティは父系で、都会に住んでいるのでなかなか話すチャンスはないけれど、ブヌン族の言葉は分かるそうです。

原住民をとりまく生活環境は変わりましたか?

都市に住む原住民が集う教会(台中市) 原住民 キリスト教会 サダック族 ブヌン族 パイワン族アミ族 民族衣装を着た周さんと奥さんの華香さん。

民族衣装を着た周さんと奥さんの華香さん。

長老を務める屏東県のパイワン族出身の周さんに聞いてみました。

皆さんのお仕事は?
「教会のメンバーにはバスの運転手、看護士、運送業、土建業など様々な職種の人間がいます。私は30年ほど前、兵役が終わったあと、仕事を求めて台中に出てきました。当時は台湾の経済発展の最中で仕事もたくさんありました。でも工事現場の労働など40歳を過ぎると体もきつくなるし、雇い主にも仕事をもらえなくなったりして田舎に戻っていく人も多くいます。

子どもの教育のことを考えると、都会でずっと生活していくほうがいいのですが、そのためには若い頃から夫婦でしっかり生活設計をしていかないと難しいですね。幸い私は子どもたちも自立して働いているので、生活は安定しています。ただ老後は田舎に帰りたいと思っています。子どもたちには田舎暮らしは無理でしょうけど。」

台湾では原住民の子弟には受験の点数のかさ上げなどの優遇措置がありますが、それでも高学歴化の進む台湾ではなかなか勉強についていくのは難しいそう。また原住民の平均寿命は台湾の平均より短いため、年金をもらえる年齢も55歳からと一般よりも10歳早くなっています。

社会保障は進んでも、個々の家庭がしっかりしていなければ、結局昔と何も変わらない生活が続いてしまう、という現実があるようです。

誇りを持ち続けるために

華淑さんはパイワン族。養護教員の資格を持ち、現在は台中市内各地の学校を回り、母語教師としても教えています。

華淑さんはパイワン族。養護教員の資格を持ち、現在は台中市内各地の学校を回り、母語教師としても教えています。


牧師さんと一緒に教会を切り盛りしている奥さんの華淑さんに、原住民の次世代教育について聞いてみました。

母語教育というのは?
「この制度は約10年前の民進党政権の時に始まり、政権の変わった現在でも引き継がれています。都市・地方を問わずどこの小・中学校でも実施されていて、先住民の言語だけでなく、その学校に客家人の子どもがいれば客家語、もちろん最大多数の台湾語の教育もあります。」
次世代をになう子どもたち

次世代をになう子どもたち




現在7つの学校を回って、それぞれ1週間に45分~2時間ほど教えているそうです。生徒は1人のところもあれば、10人のところも。行政院原住民委員会や原住民テレビ局のサイトなどインターネットの利用で教材も整っているそうです。
「もし教会の存在がなければ、原住民の言語はとっくに失われていたかもしれません。戦後の台湾の学校教育では、中国語以外の言葉は完全に使わないように指導されていたからです。でも教会は人々の生活にしっかり根付くために、それぞれの言語をとても大切にして守ってきたので、まだ母語が保たれているんです。」


それぞれの生まれに誇りを持とうという台湾の昨今の政策とは裏腹に、人口の少ない原住民が異なる部族同士で結婚した家庭や、都市で生まれ育った若い世代など、原住民としての自覚はあっても、母語を話さなくなっている人も多いそうです。

一方、田舎では父母が都会に出稼ぎに行ってしまい、老人と子どもたちしかいないというところも。故郷の衰退も原住民にとっての大きな課題の一つとなっています。
集会では毎回賛美歌がささげられます。 集会では毎回賛美歌がささげられます。

集会では毎回賛美歌がささげられます。

李さん作曲のオリジナル曲がたくさん入ったCDも発行されているそう。 李さん作曲のオリジナル曲がたくさん入ったCDも発行されているそう。

李さん作曲のオリジナル曲がたくさん入ったCDも発行されているそう。

伝統的な踊りだけじゃなくストリートダンスなんかも入っていてカッコイイ~♪ 伝統的な踊りだけじゃなくストリートダンスなんかも入っていてカッコイイ~♪

伝統的な踊りだけじゃなくストリートダンスなんかも入っていてカッコイイ~♪

お話を聞いてみると、台湾の原住民には一筋縄でいかない問題が山積していましたが、でもナビが見ている限り、教会の皆さんはとっても明るく陽気でした。天性のポジティブ思考でしょうか。台湾に誰よりも先に住みだした民族として誇りを持ち、台湾の土地で生きている庶民。すばらしい歌声と踊りの中に、今回は今まで知らなかった深い台湾事情を勉強した台北ナビでした。


台湾基督長老教会大里葡萄園教会
台中市大里區國光路二段706-10(富山世貿大楼6階)
(04)2482-0711

大里葡萄園教会HP(中国語)
集会時間  日曜日 09:50~   19:50~  木曜日 19:50~ 
日本語 可(徐さん)

行き方
■新幹線(高鐵)台中駅から6258路線の児童芸術館行きのシャトルバスに乗り、「仁愛医院」で下車。そこから来た方向に國光路を約600mほど戻り、大明路との交差点にある富山世貿大楼ビルの6階。
■臺鐵台中駅から統聯客運(50、59路線)に乗り、「國光橋」で下車。そのまま前方に進み、大明路との交差点の左側にある富山世貿大楼ビルの6階。
タクシーの場合は大里の「大買家」量販店を指定、入り口向かいの富山世貿大楼ビルの6階。


  


上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。

記事登録日:2011-11-15

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