ニウ・チェンザー監督を直撃インタビュー! 実在の娼館を舞台にした『軍中楽園』、5月26日 ユーロスペース、シネマート心斎橋ほか全国順次ロードショー

台湾と中国が対立する緊迫の時代を駆け抜けた軍人と娼婦たちの生きざまを、明るく、力強く描いた渾身作

画像提供:太秦株式会社

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こんにちは、台北ナビです。

『モンガに散る』で人気を博したニウ・チェンザー監督の最新作『軍中楽園』が、5月26日(土)より渋谷、横浜、大阪などで公開されます。台湾映画の巨匠、ホウ・シャオシェン監督が完成を望み、編集に協力したという本作の舞台は、1969年の金門島。そこに実在し、40年にわたって台湾で公然の秘密とされてきた娼館をテーマに、男と女の純愛、友情、欲望、逃避など、さまざまなドラマが描かれています。

実は従軍慰安婦がテーマということで、重くて暗~い映画なんじゃないか…と懸念していたナビ。ところが、ふたを開けてみると……

さすがは台湾!? 明るくたくましい娼婦たち

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映画の舞台、1969年当時の金門島は、台湾と中国の対立により、わずか1.8㎞先の大陸から砲撃が降り注ぐ中台攻防の最前線。そこへ新兵としてやってきた青年ルオ・バオタイは、屈強兵士が集まるエリート部隊に配属されるも、なんとカナヅチであることがバレて、「軍中楽園」と呼ばれる娼館の管理部に転属になります。

配属初日、いきなり娼婦たちのつかみ合いの喧嘩に遭遇し、顔を引っかかれてしまうバオタイ。先輩兵士に「地獄といわれるエリート部隊のほうがマシだったかも……」と泣き言をもらす情けない姿に、思わず笑ってしまいました。
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一方、娼婦たちは皆、明るく個性的で、若くてウブなバオタイをいいようにからかいます。
そんな中、ちょっと影のある女、ニーニーと出会い、次第に惹かれてゆくバオタイ。娼館という特殊な環境の中で、二人はひそかな友情を育んでいきます。

でも、ニーニーには重大な秘密があり……

老兵ラオジャンの味のある演技にも注目!

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バオタイの上官ラオジャンは、エリート部隊の士官長として怖れられる存在ですが、プライベートでは気のいい一面も見せる素朴な老兵です。彼は、何人もの男たちに愛を囁く小悪魔アジャオに一途な思いを寄せ、幸せな未来を夢見るのですが……

また、バオタイの同僚ホワシンは、過酷な現実に打ちのめされ、危うい愛へと逃避していきます。
さまざまな事情を抱える男と女たちが繰り広げる、甘美で切ない愛憎劇。戦争という悲劇が生んだドラマの数々が、ニウ・チェンザー監督の手によって、見事なエンターテインメント映画へと昇華されています。

いい意味で予想を裏切られたナビは、戦争映画なのに悲惨ではないという本作の秘密を探るべく、ニウ・チェンザー監督に直撃インタビューさせていただきました!

常にテーマと真摯に向き合う

――とても心に残る映画でした。いわゆる従軍慰安婦がテーマということで、暗くて悲惨なイメージを抱いていたんですが、実際は生きる希望が湧いてくるような、力強い内容でした。このセンシティブなテーマをこのような映画に仕上げていくうえで、監督が一番気を配ったのはどんなことでしょうか。

僕は常に、誠実なクリエーターでありたいと思っていて、誠意をもって自分の作品に取り組んでいます。だから、自分が心からいい映画、いい物語だと思うものを撮りたいんですね。
そして、その作品を通して、この世の中がもっと良くなってほしいと願っています。

ですから、映画を撮るときにあれこれ計算したり、理論的にこう撮ろう、ああ撮ろうと考えたりはしません。その作品の世界にまず入り込んで、そこで出会ったテーマと自然に付き合っていく。そうすると、どんどん物語が発展して、大きくなっていくんです。

もちろんその中には、僕の価値観や人生観、また僕自身のやりたいことや成長といったことも大きく関わってきます。そこはものすごく大事にします。
――虐げられている立場の女性たちがすごく元気で、明るいイメージなのが印象的だったんですが、それは意識して明るく撮ろうとしたわけではなく、この作品の世界観から自然にそうなったということなのでしょうか。

実は、登場する女性たちは皆、それぞれモデルがいるんですよ。映画を撮るにあたって、たくさん取材をして、資料もいっぱい読んで、それが元になっているんです。

で、それを描いていく際には、僕自身の人生に対する見方が表れていると思います。
たとえば、世の中にはいろいろな苦難や苦労があるし、日々の暮らしにもさまざまなストレスがある。それでも、僕たちは生きていかなければならない。

でも、そんな人生においても、たとえばちょうど今みたいに、ふっと気持ちのいいそよ風が吹いてきたり、ちょっと日が差して美しい光を感じたり、そういう本当に小さなことが生きていく力になったりするんですよね。そういうことって、ものすごくあると思うんです。

それからもう一つ、彼女たちはこの映画の中では非常に身分の低い、いわゆる卑しい存在というふうに見られているんですが、でも僕はそうじゃなくて、彼女たちは皆、僕の女神だと思っているんです。だから、できるだけ高く置いて描きたい。そこはものすごくこだわりました。

つまり、何が言いたいかというと、どんな悪い人でも、どこかに善良な一面をもっているし、どんなに苦しい生活でも、その中には幸せや楽しみもある。そういうことを伝えたかったんです。

老兵ラオジャンの姿にこめられた思いとは

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――なるほど、この映画全体に流れる明るさの意味がよくわかりました。士官長のラオジャンも、エリート部隊の鬼軍曹でありながら、一方で人間味あふれる優しい一面も描かれていますよね。
このラオジャンは監督のお父様の人生と重なる部分もあるとお伺いしたのですが、監督にとってのお父様の思い出、たとえばラオジャンにとっての餃子のような、そういったエピソードがあれば教えてください。


この映画のラストに字幕がありますよね。この映画は僕の母方の祖父と自分の父に捧げる、また運命に翻弄されたすべての人に捧げる、と。
僕の父もこのラオジャンも、1949年に大陸から軍隊と一緒に台湾にやってきて、二度と自分の故郷に帰れなかった人なんですよ。この世代の人たちはみんなそうだった。だから、ある種の哀愁があるんです。自分の生まれ育った故郷に対する哀愁が。

ラオジャンは山東省出身で、しゃべっている言葉も山東訛りです。で、山東省の人にとって、餃子というのはとても重要な食べ物なんですよね。彼らは正月だとかお祝いのときには、必ず餃子を包んで食べるんです。だから餃子を包むということは、何かお祝い事、めでたいことがあるっていう表れなんですね。

で、彼そのものは僕の父とはまったく違うんだけれども、でも、僕はこのラオジャンを撮るときには、父に対する懐かしさや敬愛の念をもって描いていました。

父は北京出身なので、餃子は作らないんですが、でもときどき、突然「おふくろの味をつくるぞ!」なんて言い出すんです。
そうすると、もうその日は大変! あっちこっちに出かけて、材料や調味料を探して、とにかく今晩はおふくろの味を再現する!って夢中になって、郷土の炒め物なんかをつくるんですよ。

母方の祖母も北京出身だったので、もう二人でワイワイと、これはこうだ、あれはあの味だなんて大騒ぎしながら料理するんです。そういうのはものすごく思い出がありますね。そういったことを思い出しながら、このラオジャンを描きました。

日本人もそうですよね。日本から離れて、よその地で蕎麦を食べたり、おにぎりを食べたりしたときに、ああ、おふくろの味だ、と思う人は多いんじゃないでしょうか。それと同じです。その気持ちは、ふるさとに対する、あるいは祖国、母国に対する哀愁みたいなものだと僕は思うんです。
――その哀愁が、二度と帰れないという辛さだけにフォーカスするのではなく、故郷を懐かしむ明るいイメージで描かれているのがとてもいいと思いました。

これは多分、僕の人生観そのものなんですよ。正直、その哀愁をずーっともっていてどうするの?と。だから、哀愁をうまく昇華させたい。心に悲哀をもったままにはしたくないんです。

過ちを繰り返さないために何をすべきか

――ネガティブな面ばかりに目を向けるのではなく、それをいかにポジティブに転換していくかということが大事なんですね。
日本では慰安婦問題というと、歴史の中の悲惨な部分で、できるだけ触れてはいけない、タブーだという認識がありますが、この映画ではそこがとても力強く、前向きに描かれていたのが印象的でした。この難しいテーマを、これまで日本人が抱いていた悲惨なイメージとは違った視点から観られる貴重な映画だと思うので、ぜひ監督から私たち日本人に向けて、特にここを観てほしい、これを伝えたいといったメッセージをいただけますか。


そういう感想をいただいて、すごくうれしいです。ありがとうございます。
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この世の中で、我々は今までいろいろな苦難や苦労を経験してきました。多くの過ちも犯してきた。それらは当然、消えてなくなることはありません。

ですから問題は、我々がこういった過ちや苦難とどう直面するか、どう対峙するかということだと思うんです。それをしないと、いつまでもある種の罪悪感を背負ってしまう。その罪悪感を捨てないと、許すこともできないし、そもそも日々の暮らしとちゃんと向き合っていくことすらできない。
つまり、罪悪感を持ち続けていたら、ある意味では幸せというものを手に入れることはできないと思うんです。

我々はよく、ああ、あれは汚いとか、これには触れたくない、言いたくない、見たくないといって、結局そこから逃げてしまいますよね。でも、傷ができてしまったら、その傷口はずっと残っているわけです。それを癒さないと、だんだんと腐敗して臭くなる。それと同じことなんです。
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『モンガに散る』『LOVE』、そしてこの『軍中楽園』の三作は、いずれもベルリン国際映画祭に招待されて、僕も現地に行ったんですが、ドイツ人のすごいところは、彼らは歴史に直面する勇気をもっているんですね。自分たちはこういう過ちを犯した、それはよくないことだ、と。
そうやってきちんと直面することで、自分自身にいつもリマインドしている。二度とこのような過ちは犯さない、とね。

一つはっきりと言えるのは、過ちは決して恥ずかしいことではないということです。いかにそれと直面して、過ちを繰り返さないようにするか。そうすることで永遠の幸せを手にすることができる。そこはとても大事だと思います。

もしかしたらいつか、こういうふうに言えるようになるかもしれません。暗闇は決して怖くない、と。なぜなら、闇も光の一部分なんですから。

――そうですね、そう言えるようになるといいですよね。

俺は馬鹿だ、と自分で言えるといいんですよ。そうすることで、馬鹿から聖人になることもできる。つまり僕の闇の部分は、僕の光の部分と一対になっているんですね。

日本はまさしく魅力的な国、文化も歴史も長くて、豊かで特別な国ですよね。僕はいつも日本に魅せられています。
また、日本は世界のためにさまざまな貢献もしています。

でも、だからといって、過ちを犯したというのは決しておかしいことじゃない。誰にだって過ちはあるんだから、二度と犯さなければいいんですよ。それで罪悪感も捨てて、そうすれば前向きに、幸せに生きていけるんです。

監督だから、クリエーターだから言うんじゃなく、僕は一人の人間として言いたい。
世の中にはいろいろな争いがあるけれども、そもそもの問題は、過去と真正面から向き合う、直面する勇気がないことだと思うんです。

なぜそんなことを言うかというと、今の中国の人たちは昔、戦争でいろいろな被害を被って、やっぱり傷をもっているわけです。でも彼らが求めているのは、単に一言謝ってほしいという、ただそれだけなのかもしれない。

なぜなら、今の日本は世の中にたくさん貢献していて、人々の生活にさまざまな利便性をもたらしています。中国の人たちもその恩恵を受けているわけですよ。
だから、たぶん勇気をもって過去の過ちと向き合えば、皆が前向きになれるんじゃないか、と。あくまで僕個人の考えですが。
先ほども言ったように、どんな悪い人でも、必ずいい一面をもっているし、どんなに苦しい生活の中にも、楽しさや幸せを探すことはできる。この映画の中の女性たちだって、卑しい娼婦だけれども、聖人のような一面ももっている。で、この映画に出てくる聖人、いわゆるいい人たちも、実は皆とんでもない馬鹿野郎ですよね。そういうことだと思うんですよ。

ニウ・チェンザー監督流・台湾の楽しみ方とは?


――とても貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
それでは最後に台北ナビ読者に向けて、監督がオススメする台湾の観光スポットや食べ物などを紹介していただけますか。


日本人はみんな、台湾の楽しみ方をよく知っていると思いますよ。他の国の人たちは台北に来ると、なんか台湾って遅れてるなぁ、などと言うんですが、僕の周りの日本人の友人はだれもそんなことは言いません。

台湾の良さっていうのは、新しいものと古いものの共存なんですよ。しかもこういったところは皆、目立たないところ、片隅に残っているんですね。

――そういったスポットでどこかオススメはありますか。

僕が推薦するまでもなく、たくさんのガイドブックがあるじゃないですか。それに、旅の神様に任せていれば、自然にいいところに連れて行ってくれるんですよ。

日本人の皆さんは台湾に行くと多分、ああ、いいなあ、優しいなあと感じると思います。なぜなら、日本の一部がまだ台湾に残っているんですよ、統治時代のね。

僕自身は自転車に乗るのが好きで、よく目的もなくあちこち行くんです。で、その辺の屋台で売っているものをちょっと買って食べたりして。
夜市みたいな観光スポットじゃなくて、ホントに道端のちっちゃなお店で、もう二代も三代も続いているようなところがいいんですよ、安くておいしくて。

僕はいわゆる観光スポットには絶対に行きません。日本に来ても、東京タワーやスカイツリーには行ったことがない。気の向くままに外に出て、その辺をぶらぶら散歩したり、マイ自転車を一緒に連れてくることもあるので、それであちこち走ったり。

そうすると、あ、あそこに桜が咲いている、ちょっと行ってみようって横道に入って、導かれていくと、おおっ、すっごい素敵じゃん!って、思いがけない美しい景色に出会えたりする。そういう旅の仕方が好きなんですよ。

だから台湾に行っても、必ずしも阿里山とか日月潭に行かなくてもいい。僕には僕自身の日本というものがあるし、日本の皆さんもそれぞれ、自分自身の台湾というものを持てばいいんです。それが一番楽しいんじゃないかな。

――なるほど。旅の楽しみ方がよくわかりました。
実はこの日のインタビューは監督の希望により、気持ちのいい春風が吹き抜けるテラスで行われました。しかも、シャンパンとおしゃれなオードブル付き! 
すでにほろ酔い加減の監督に最初はちょっと戸惑ったナビでしたが、お話を伺ううちに、固定概念にとらわれないこの自由なスタイルこそが、ニウ・チェンザー監督の人生観そのものであり、そういう監督だからこそ、この力強い作品が生まれたんだと納得できました。
皆さんもぜひ、ニウ監督の描く「軍中楽園」の世界を堪能してみませんか。

以上、台北ナビがお届けしました。

軍中楽園

監督、脚本、エグゼクティブ・プロデューサー:ニウ・チェンザー
編集協力:ホウ・シャオシェン
出演:イーサン・ルアン、レジーナ・ワン、チェン・ジェンビン、チェン・イーハン

監修協力:野嶋剛 提供・配給・宣伝:太秦

2014年/台湾/カラー/DCP/シネマスコープ/133分/5.1ch/字幕翻訳:神部明世

c2014 Honto Production Huayi Brothers Media Ltd. Oriental Digital Entertainment Co., Ltd. 1 Production Film Co. CatchPlay, Inc. Abico Film Co., Ltd All Rights Reserved

上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。

記事登録日:2018-05-22

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