一青妙です。稽古中は日中台の言葉や文化の違いを色々と経験しました!
北芸大の校内に吊るされた舞台のお知らせ
こんにちは一青妙です。
台湾の舞台「孫飛虎搶親」に出演するまでの第2回目!今回は稽古を中心にリポートして行きたいと思います。
さて日本で舞台を上演すると決めたら、通常早ければ本番の2カ月前くらいから、週数回3~4時間の稽古が始まり、徐々にその量を増やして行きます。本番2週間前には、毎日朝から夜までの稽古となり、一週間前は「小屋入り」と言って、本番で使う舞台セットが組み立てられ、照明、音響など技術的なやり取りが行なわれます。
台湾でも大まかな流れは同じでした。違ったのは、舞台に関わる人間が中国、台湾と2つの国からのため、ビザや滞在費の関係上、できるだけ短時間で効率的な稽古日程が組まれたのです。その結果、稽古期間は約1カ月間。同じ言語を話す者同士とは言え、関わる人のほとんどが初対面。更に初の両岸交流制作による舞台、初めて上演される台本、私のように日本からの乱入者一人と初物尽くしで、演出家は本当に無事上演できるのかととても心配したそうです。
そんな心配をよそに、我々出演者は2012年3月5日より、週に6日間、13時~22時の稽古をスタートさせました。
週の始めに貼り出される稽古スケジュール
「孫飛虎搶親」とは?
稽古場の玄関 いつも元気に出迎えてくれます!
「孫飛虎搶親」は、台湾の演劇界の草分け的存在であった姚一葦(1922~1997)が、1965年に書いた作品。でも内容があまりにも前衛的かつ難解だったため、あくまでも実験的台本として位置づけられてしまいました。だから演劇界では上演不可能と認識され、手を出す人は誰もいなかったとか。
しかし、2012年は、姚一葦生誕90年、北芸大(台湾国立台北芸術大学)の開校30周年記念にもあたるので、台湾各地で姚一葦の作品を上演することになり、そのうちの一つが、私が参加する「孫飛虎搶親」なのでした。
充実の稽古場!
稽古場
稽古場は、北芸大の女子宿舎内にある多目的教室。プロジェクターやバレエのバー、鏡、ルームランナーなどが完備。東京都内でこれだけの広さと設備がある場所を借りるとなると、結構高いので、思わず「好棒(すごい)!」と叫んでしまいました。
稽古は毎日13時から。日本の感覚だと、普通12時半くらいまでには着いて、お昼を食べ、着替えてストレッチ、発声練習などをして演出家を待つ、という流れ。なので、張り切って12時半過ぎに着いたら、稽古場には誰もいなかった…。でも着替えて待つこと20分。もうすぐ13時になるのに、まだ誰もこない!場所を間違えた?と少し不安になっていたところ、ようやく演出家の呉さんが到着。
「你那麼早來!」(早いね!)
開口一番にこう言われてびっくり。
皆で柔軟!
その後、13時過ぎになってからようやくパラパラと人が集まり始め、着いてからご飯をまず食べる人、電話する人、お喋りする人など一向に稽古は始まらない雰囲気。結局きちんと稽古が始まったのは2時近くなってからでした…。
集合時間の概念は、日本よりかなりアバウトだなとわかりました!
中国語を使っていても文化は違うんですねぇ
集まりはアバウトだけど、稽古は厳しく、真剣でした。演出家は的確に役者にセリフ回しや動きの修正を指示し、着々と進んでいきます。
演出の仕方について台湾と中国の違いを共演者に聞いて見たところ、中国では演出家の言う事が絶対であり、役者がどう思っても、演出家の指示に従わないといけないのに対し、台湾では演出家と役者がお互いに模索しながら作り上げていくスタイル。
どちらが良いとは言えませんが、今回中国人の演出家に演出される台湾人は、一言のセリフの言い回しや指使いまで指定され、慣れるまでかなり抵抗を感じたそうです。
繁体字の台本
中国と台湾、同じ北京語を話すのだから、何も問題がないと思っていた私。でも稽古を通して、発音、言い回しが大分違うことに気づき、使う文字も簡体字、繁体字と違うため、2種類の台本が用意されていた事に驚きました。
だから演出家が指示を出すときは必ず、簡体字のページ数と繁体字のページ数を言い、台湾では聞き慣れない言い回しを修正したりする作業が入りました。
更に台湾人が話す北京語は口先を使って発音しているせいか、中国人にくらべるとはっきりしないため、ワンフレーズのどこにポイントを置き、一言一言をはっきりとキチンと発声する訓練も行なわれました。(でも台湾人にとって中国人が話す北京語は、あまりにも巻き舌が激しく、普通の会話では、実は半分くらいしか理解できていないと共演者は吐露していました)
指導して下さったのは、姚海星(姚一葦の娘さん)先生。思い入れがある亡き父の作品を上演するということもあって、とても熱心でした!
休憩時間も新たな発見!
随所にある給湯器。勿論無料です!!
日本での稽古中のエネルギー補給は、ペットボトルの飲料にチョコレートやパンを食べる人が多いのに対し、台湾ではペットボトルの飲料を持っている人は殆どいません。その代わり、誰もがお湯やお水を入れられる容器を持っていたのです。
中国人はその中に茶葉を直接入れてお湯を注ぎ、台湾人はお茶ではなく、お湯を飲む人が多かったところに、微妙に違う習慣を感じ面白かったです。
差し入れはトマトやミカン、リンゴなどフルーツが多く、甘い物はパールミルクティーくらいで本当にヘルシーだなと感心!
にぎわう学食内
昼食、夕食は、大学内にあるコンビニや学生食堂、レストランで食べる人やお弁当を注文して皆で食べたりしました。
学食は餃子で有名な「八方雲集」やサンドイッチ、量り売りのバイキングなどがあり、バラエティ豊富。間食しない代わり、みんなしっかりとご飯食べていました。
青空の下でごはん
休憩中にお散歩をしてみました
学内にはブックストア、関渡美術館など他にも一息つけるところがたくさんあって、退屈しません。
芸大ということだけあって、キャンパス内は学科ごとに特徴があり、それらを覗いて歩くだけでも楽しいです。
演劇学科の校舎内には、卒業生がこれまで公演した有名な舞台のポスターが飾られていて、各所でセリフ合わせをしている学生がいました。
リハーサル用の劇場の他、商業用にも使われている劇場と野外劇場もあり、本当に素晴らしい環境です。でも、野外劇場は、蚊が多いので学生にはあまり評判がよくなかったです…。
野外劇場
伝統音楽学科には見慣れない楽器が沢山陳列されていました。今回の舞台では、舞台上で役者が楽器を使う場面もあり、その楽器はここから借りてきていました。
美術学科の学生は工房にてせっせと作品作りをしていました!工房の外には、ガラクタ?ゴミ?いや…芸術作品がたくさん転がっていましたよ。
稽古は着々と進み・・・
稽古の合間をぬって、劇中で使う歌の収録や踊りの練習もしました。
出演者は総勢16名(中国2名、日本1名、台湾13名)。実際、台本を読んだだけでは、どうまとまるのかさっぱり予想がつかない状態でした。でも、ベースの古典劇にラップやストリートダンスなどが加わり、老若男女誰でも楽しめる内容に進化を遂げ、演出家の力と出演者全員の力で少しずつ形になりました。
主役の孫飛虎を演じる呉樾(中国)
衣装は現代劇ではないので日本の着物にあたる中国の伝統服を着ます。衣装が加わるだけで大分気分が盛り上がるでしょ。
4月下旬に入ると、稽古は小さかった女子宿舎の多目的教室から、大学内の大きな劇場に場所を移し、通し稽古を始めました。
今までよりずっと広くなり、実際に演じる舞台に近いサイズでの稽古に入ると、気分も引き締まり、演出家も一段と厳しい顔つきになっています。
稽古中、中台の言葉の違いを色々と経験しましたが、舞台用語においても違うところがあって混乱が起きました。というのも、役者がスタンバイしたり、出入りする場所の呼び方がちがったから、演出家が指示しても、みんなてんでバラバラのところに向かって歩き出してしまったのです。
日本での呼び方とも違ったので、私も慣れるまで戸惑ってしまいました。
上下左右一体どっちへ?!
中国からきたプロデューサー
約1カ月弱の大学での稽古が終わり、いよいよ最初の公演会場へ向かう前の晩、稽古打ち上げが行なわれました。近所の台湾料理屋で思い切り食べ、飲み、騒ぎました!
噂には聞いていたけれども、中国の人はやはりお酒がかなり強くて、翌日劇場入りだと言うのに明け方まで飲み明かしていたそう。台湾組の何人かも頑張ったみたいだけれども、さすがにダウンしたみたいです。
すっかり北芸大の学生の気分になっていたので、離れるのが名残惜しいけれども、次回は本番を迎える台北•国家戯劇院からのリポートをしたいと思います!!
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記事登録日:2012-07-09