【台湾本】大原扁理の台湾読書日記⑨ 『オードリー・タンの思考 IQよりも大切なこと』

台湾のデジタル担当大臣に学ぶ、よりよい世界の作り方

こんにちは、大原扁理です。

コロナ禍で一気に人々の耳目を集めた台湾人といえば、まず筆頭にあがるのが唐鳳(オードリー・タン)ではないでしょうか。若くして天才ハッカーとして頭角を現し、トランスジェンダーとして世界初のデジタル担当大臣に就任、さらにコロナ禍では台湾中のマスク店頭在庫がひと目でわかるマスクアプリを開発などなど、その華やかな活躍で、日本でもかなり話題になりました。

今回は、そんなオードリー・タンへのインタビュー本『オードリー・タンの思考 IQよりも大切なこと』(近藤弥生子・著)を紹介します。

デジタルとオードリーと私

まず、この小見出しを見て、私がオードリーと知り合いだと思われる方もいるでしょう。いいえ、一度も会ったことはありません(笑)。さらに、コロナ禍以前に3年半も台湾に暮らしていて、オードリーの名前くらいは知ってはいましたが、恥ずかしながら彼女の仕事や経歴について詳しく知ったのは、多くの日本人と同じく、コロナ禍以降でした。というのも、私はITやデジタルに関しては完全に門外漢なんです。

"Audrey T_0352_Color" ©Kaii Chiang 江凱維(Licensed under CC BY-NC-SA 4.0)https://www.flickr.com/photos/audreyt/49820671137/in/album-72157714043968706/

それでも、台湾で暮らしていると、あるとき生活が変化していくのを目撃します。大きな変化としては同性婚が認められたり、小さな変化としてはファストフード店のドリンクが環境負荷の少ないカップに変更されていたり。そして、あとから何かのときに、「あれはオードリーの提唱するソーシャル・イノベーションの結果だったのか」とわかるんです。

つまりデジタルに詳しくない人(私)もちゃんと社会に包摂される形で、より良いほうへ変わっていってるんですね。こんなふうにしてオードリーは、コロナ禍になるよりもずっと前から私の台湾生活に少しずつ、でも確実に良い影響を与えてくれていたのでした。

オードリーって、ちょっと未来から来た人みたい

さて、オードリーに関する本は、すでにたくさん出版されていますが、この本は台湾在住のノンフィクション・ライターである近藤弥生子さんが、実際にオードリーのオフィスに通って、直接インタビューした内容をまとめたものです。

人物、生い立ち、仕事……と、ここまでは他の多くの本やメディアでも語られていることでしょう。この本では、オードリーの側近や関係者へのインタビュー、さらに第4章で「どうすれば私たちもソーシャル・イノベーションに参加できるのか」という視点でのインタビューが加えられ、さらにオードリーのオススメ本から心の持ちよう、日常的なライフハックまで紹介。個人的にはここをいちばん興味深く読みました。
画像提供:近藤弥生子

画像提供:近藤弥生子

「まず、楽しむこと」「問題があるからこそ光が差し込む」「トロールを抱きしめる」「反逆はパワーの無駄遣い」「『考え方』こそが、主役」など、読んでいると、ちょっと未来から来た人の話を聞いているみたいで、ワクワクしてきます。

また、本人の発言は、かなり長くなってもおそらく添削をせず、わかりやすいように太字になっているのもうれしいところ。著者が自分の意思を介入させずに、オードリーの言葉を限りなくオリジナルに近い形で届けたいという努力が伝わってくる内容になっています。

アナログな人にもできるソーシャル・イノベーションとは?

そうはいっても、やはり天才と比べて、自分には何もできないような気がしてしまうのが凡人の性……(笑)。なんですが、この本を読んでいると、ソーシャル・イノベーションというとき、デジタルの分野で何かを成し遂げるよりも、根本的に大切なことがあると気づかされます。

それは、書いてみるとしごく当たり前なのですが、オードリーは自分ひとりの力で今のオードリーになったのではない、ということ。親や、学校や、地域の人々が、つまり台湾社会が、他人と違うオードリーを、どうしたら受け入れ、一緒にやっていけるのか、いつも考えてたゆまぬ努力をしてきたことがよくわかります。
画像提供:PDIS

画像提供:PDIS

コロナ禍以降、「オードリーのような大臣がいる台湾がうらやましい」という言葉をちらほら聞くようになりました。でも、結果だけを見て台湾を羨むのではなく、私はまず、すぐ隣にいる日本の小さなオードリーを、無意識に否定したり、攻撃したり、排除したりしていないか、ということを自分に問いかけたい。余裕があれば、「トロールを抱きしめる」ことも忘れずに。それが、デジタルに詳しくない人にもできる、地べたのソーシャル・イノベーションなのかもしれません。

【今回紹介した本】
『オードリー・タンの思考 IQよりも大切なこと』著・近藤弥生子(ブックマン社)1800円+税 2021年2月22日発売

・オードリー・タンのTwitter
https://twitter.com/audreyt

・近藤弥生子さんのTwitter
https://twitter.com/yaephone
これらは近藤さんが特に伝えたいと思ったオードリーさんの言葉をポストカードにしたもの!書店限定のノベルティとして数量限定で製作されました<br>画像提供:近藤弥生子

これらは近藤さんが特に伝えたいと思ったオードリーさんの言葉をポストカードにしたもの!書店限定のノベルティとして数量限定で製作されました
画像提供:近藤弥生子

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記事登録日:2022-08-30

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