大原扁理の台湾読書日記⑦ 『明星』

胸が焦がれるような美しい台湾が詰まっている写真集

こんにちは。大原扁理です。

コロナ禍がはじまってもうすぐ2年。こんなに長いこと台湾に行けなくなるとは誰もが予想していなかったですよね。3年半住んでいた私も、今は日本にいて、台湾への思慕は日々募るばかり。でも、台湾の何がそんなに恋しいんだろう。言葉にできないその答えを鮮やかに切り取ってくれた、台湾が舞台の写真集『明星』を紹介します。

思わず目が釘付けになる、変わった形のひみつ

『明星』の著者(というか写真家)は、川島小鳥さん。3年間台湾に通いつめ、台湾を撮影しつづけ、この作品で写真界の芥川賞といわれる木村伊兵衛写真賞を受賞されています。『未来ちゃん』という写真集でも有名ですよね。

さて、この『明星』という写真集、ひと目見てまず思うのは、その見たことのないヘンな形。大型で長方形で、右上が斜めにスパッと切り取られています。
「なんでこんな形に?」という疑問を胸にページをめくると、なるほどヨコ長とタテ長の写真が交互に収められているのです。で、当然、次の疑問としては、「なんでヨコとタテを交互に??」。見ていくとわかりますが、目の前に広がる情景の美しさに、カメラのほうが合わせているんですね。で、いざそれをまとめようというときに、タテの美をヨコに、ヨコの美をタテにしたくない、と(川島さんがそう思ってたかどうかはわかりませんが)。
で、次の疑問がこれ。「じゃあ、美しいって何?」

「あるがまま」の美しさを激写する!

人は何を美しいと思うんでしょうか……。ってそんなテーマはネットの記事ではなく人生をかけて追究していくやつなので、ここでは超個人的に考えてみます。私は台湾の何を美しいと思っているか。
それは乱雑な町並み、同じ制服を着ているけどてんでばらばらの子どもたち、とくにがんばって残そうとも思っていないけどフツーに残ってるレトロ感、ときどき見かける息をのむような美男美女、日本だったら「何かあったらキケン」とかいう理由でとっくに撤去されている校庭の遊具、自由な犬と猫とおじさんとおばさんと神とカニとパイナップルと建築現場と看板とETと……。

そういうもの全部を、私は「美しい」と思っているみたいです。ひとことで無理矢理まとめるなら……あるがまま、ってことかなぁ。

台湾に感じる「懐かしさ」の正体は……

この写真集、最後まで見終わったとき、いわゆる「観光地」みたいなものが一つも出てこないことに気がつきます。つまり外向きアピール用に整えられた台湾ではない、私が隠居生活をしていたフツーの、何の変哲もない風景。こう言ってよければ、SNS映えしないほうの、バズらないほうの台湾なんです。
人も自然も、あるひとつの基準に全体を合わせない、あるがままの美しさ。そんなもの、よく見ればどこの国にもあるんだろうけど、台湾ではよく見なくてもそこらじゅうに転がっている。私たちが台湾を懐かしいというとき、その懐かしさの中には「人間がまだちゃんと人間である」ってことも、含まれるんじゃないかなぁ。

便利に、システマチックに、整えられれば整えられるほどなくしていくもの。私たちは、そういうものがまだ台湾に残っているのを見つけては、その恋しさに胸を焦がし、そのまぶしさに目を細めるのだと思います。

そんな南の「明星」の美しさを、何よりも雄弁に伝える写真集。ぜひ手に取ってみてください。

【今回紹介した本】
『明星』著・川島小鳥(ナナロク社)3000円+税 2014年12月24日出版
・川島小鳥さんのTwitter:https://twitter.com/kotorikawashima
・川島小鳥さんの公式ウェブサイト:https://www.kawashimakotori.com/

画像提供:川島小鳥、ナナロク社

上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。

記事登録日:2021-12-28

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