「探索樟脳王国」~国立台湾博物館~

你好!一青妙です。今回は、国立台湾博物館で行われている期間限定の展示「探索樟脳王国」を見て来ました。

皆さんは「樟脳」にどんなイメージを持っていますか?私は、着物の匂い、そしてトイレに吊り下がっていた強烈な匂いの固形物を思い出します。でも最近は、「ムシューダ」や「ミセスロイド」のような無臭の防虫剤ができたから、その匂いを嗅ぐ機会が減りました。足を踏み入れただけで、そんな昔懐かしい匂いが漂って来そうな「樟脳」ワールドへようこそ!
香り、届きます?!

香り、届きます?!

樟脳とは

そもそも樟脳って?と思っている方のために、簡単な樟脳解説!樟脳はクスノキ(楠)の葉や枝、根を蒸留して作られる精油の主成分。昇華性結晶で、強い香りを持ちます。
~用途~◇ 薬用中枢神経を興奮させる作用や鎮静、消炎作用を持つ
☆ 中医:疥癬、風湿等に有効
☆ 西洋医学:強心剤(カンフル剤)、皮膚病、神経衰弱等に用いる
◇ 工業用途
☆セルロイドの可塑剤
☆無煙火薬の安定剤
☆合成香料、医薬原料
◇ 生活用品
☆防腐剤
☆防虫剤
☆消臭剤
◇ その他インドなどで宗教用品として用いる
 樟脳って多目的に使われる優れたものだと思いませんか?!

樟脳の意外な用途

第二次世界大戦の頃、無煙火薬の原料として樟脳は軍事産業に大きく貢献していました。何故なら、無煙火薬は相手に居場所を探られにくいことで、世界中の軍隊で使われるようになったから。世界各地に輸出されて行く樟脳と戦争との関係が展示されています。
 ~番外編~{樟脳舟}樟脳を小さくカットして船尾に付けた木製もしくはセルロイド製の小船を水面に浮かべると、後方の水面に樟脳の成分が拡がり,表面張力の差によって前方に引っ張られ船が進むのを見た記憶がありませんか?それは昔、縁日の露店等でよく売られていたシンプルで安価なオモチャなんですって!
 

台湾と樟脳

楠は中国大陸南部から台湾、日本の九州や本州南部にしか分布していないため、日本は植民地であった台湾に、広大なクスノキプランテーションを作りました。明治32年台湾専売となり、最盛期には世界の樟脳の8割が台湾のもので占められていたそうです。当時「臺灣總督府專賣局臺北南門工場」にて、数千人の従業員が日夜樟脳造りに携わっていました。その面積は1万7千坪もあったそうですが、現在はその約1/8の面積にまで縮小し、「國定古蹟臺北樟腦工廠」の名称で、最古の化学工場跡地としてとても重要な場所となっています(現在修復中)。 展示資料を読めば、日本統治下の台湾で、日本人がどのように関わって樟脳産業が発達したのかがよくわかります。更に、入り口から見て左手奥の別室では、日本統治下の台湾各地での産業や生活を記録した日本語のビデオが上演されているので、言葉の問題なく、見ることができますよ。 

樟脳ができるまで

クスノキから樟脳の結晶を製造するのに使われていた道具の展示。一見農家にありそうな道具ばかりなので、こんなものでどうやって?!と考えさせられました。実際にはそれらの道具を使ってクスノキの砕片を水蒸気蒸留(高温の水蒸気で加熱して高沸点の物質を分離する方法)して得るそう。
樟脳の製作過程

樟脳の製作過程

昔樟脳を運んでいた樟脳ポット

昔樟脳を運んでいた樟脳ポット

樟脳•ナフタレン•それとも?

樟脳はどれでしょう!?

樟脳はどれでしょう!?

防虫剤が一番身近な使い方の樟脳。そんな防虫剤には大きく分けて樟脳、パラジクロロベンゼン、ナフタリン、エムペントリンの4つの種類があります。しかし、4つのうち、樟脳だけが自然由来の防虫剤。他の化学化合物よりも体に良いということで、最近また見直されて来ているそう。台北の町中で時々、天然の樟脳精油を売っているお店を見つける事もできますよ。で、この防虫剤(樟脳、ナフタリン、ペラジクロロベンゼン)の外見、どれも白い固形なので、なかなか見分けがつかないんです。でも、ちょっと懐かしい学生時代の理科の実験のようなことをすればすぐに分りますよ!天然の防虫剤である樟脳を見分けるためのちょっとした豆知識になりますね! 
〜溶液は「65度の温湯」〜● 樟脳(カンフル) 固体 水面に浮かぶ●ナフタリン 固体 水底に沈む● ペラジクロルベンゼン 油状 水底に沈む
因にこの4つの防腐剤、お互いに相性が悪いので、併用すると衣類を逆に傷めてしまう可能性があるのでご注意下さい! 
天然樟脳の製品

天然樟脳の製品

以前の藤沢薬品工業が1890年(明治30年)に、前身の藤澤商店から「藤澤樟脳」を発売し同社の看板商品となり、現在も商品として存在しています。何となく懐かしさを感じるパッケージじゃないですか!?
樟脳が含まれている製品

樟脳が含まれている製品

有名なこれにも入っているんですね!

有名なこれにも入っているんですね!

サロンパスやサロメチール、そしてメンソレータム。どれもよく見かけるもの。これからは商品パッケージの裏の成分をちょっと気にかけると新しい発見があるかも。 

展示を見て

 樟脳の展示を見ていて、私自身の背景についても、考えるところがありました。過去に新聞などでも報じられているのでご存じの方もいらっしゃるかも知れませんが、台湾人である私の父親の実家は、日本の統治時代に台湾の基隆を中心に、炭鉱や金鉱の開発を行っていた一族でした。姓は「顔」で、台湾では顔家と呼ばれています。顔家は日本統治時代の戦前の台湾では五大家族の一つに数えられ、かなり大きなビジネスを展開していたらしいのですが、戦後は鉱山経営もかなり行き詰まってしまい、現在はいくつかの会社を運営するだけのこぢんまりとしたグループ企業になっています。父親もその会社の一つで働いていました。南国・台湾には豊かな自然もあり、天然資源でも恵まれていたので、戦前の日本政府は、台湾をいろいろな一次産品や資源の獲得基地と位置づけていたそうです。クスノキから採取される樟脳や鉱山から採れる石炭や金は、日本国内や世界で大きな需要があったので、活発に生産を行った結果、日本企業と協力して力をつけていく台湾企業も誕生しました。樟脳を売る権利を獲得して大きな成果を挙げたのは、五大家族のなかで、台中にある林家や辜家でした。私の先祖の顔家は樟脳事業を手がけてはいませんでしたが、石炭については、一時台湾全体の3分の2ぐらいの生産量があったと言われており、金鉱についても、アジアで最も生産量の多い金鉱であった時期もあったようです。台湾の豊かな自然や資源の恵みによって日本と台湾が深く結びついた歴史。そのおかげで今の私があるんだということを改めて心に深く感じて、この樟脳に関する展示もしっかりと見ておかないといけないと思ったのでした。国立台湾博物館では常設展の他、期間限定で面白い展示をしているので、既に行った事がある方も、自分に興味があるものを見つけて再び行くと新しい発見があるかもしれませんね。 
特別展示期間 : 2010/5/14~ 2010/10/15
住所 : 台北市中正区襄陽路2号
電話番号 : 02-2382-2699
営業時間 : 10~17時
休業日 : 月曜日、或いは休日の次の日、旧暦の大晦日、旧正月、毎年12月第1週はお休み
日本語 : 不可
入場料 : 大人20元、学生10元(就学前の子供65歳以上の方は入場無料)
ホームページ : 

上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。

記事登録日:2010-07-27

ページTOPへ▲

その他の記事を見る