日台文化交流を推進するアート・プロジェクト「Taiwan NOW」のフィナーレに、台湾南部歌仔戲の三大王が集結!
こんにちは、台北ナビです。
コロナ禍により、日台間の観光往来が遮断されてから早2年が経とうとしています。日本からの観光客をいつも温かく迎え入れ、日本が大好きな多くの台湾の人たちの思いと、台湾が大好きでたまらない日本の皆さんの思い……そんな日台間の熱い思いをさらに深めてくれるような、素敵なアート・プロジェクト 「Taiwan NOW」が12月25日、高雄にてフィナーレを迎えるということで、ナビも高雄へ行ってきました!
初めて「Taiwan NOW」を聞いた時には、はて?何のこと?と頭の中は「?」がいっぱい。そこで、まずは「Taiwan NOW」についてご説明します。
台湾文化部と財団法人文化台湾基金会が企画した大規模プロジェクトで、台湾の芸術文化を国際的に広めたいという願いを込め「東京2020大会」の開催に合わせて企画されたイベントです。
「ともに花を咲かせよう」のコアコンセプトのもと、日本のアートチームとの共同制作により、花をテーマとした様々な芸術と感動を、東京・台湾・バーチャル会場を通じて届けてくれました。2018年から準備が進められたという本プロジェクトが、コロナウイルスのパンデミックに翻弄されながらも屈することなく、3年の歳月を経てようやく実現へこぎつけたという事実を知った時、ナビの胸に熱いものが込み上げてきました。
紆余曲折を経て、「東京2020大会」終了後の2021年10月に東京会場よりスタートしたこのプロジェクトは、今回の高雄「衛武營國家藝術文化中心(衛武営国家芸術文化センター)」 で公演された、台湾オペラの別名を持つ歌仔戲・「Aphrodite 阿婆蘭」をもって幕を閉じました。
「Taiwan NOW」のフィナーレを、しっかりと目に焼きつけるぞ!という思いを抱きつつ、会場入りしたナビでした。
歌仔戲「Aphrodite 阿婆蘭」の見どころ
こちらが題目となった阿婆蘭!小ぶりで可憐な印象です
演出・脚本を手掛けたのは、日本現代アートの美術作家・舞台演出家のやなぎみわさん。 台湾に愛着を持っているやなぎさんが訪台中に出合ったという、台湾固有種の胡蝶蘭「阿婆蘭(アポーラン)」をめぐる物語です。
台湾離島(蘭嶼)の山奥に密かに咲いていた阿婆蘭が人間の手によって改良、量産されていく様を、台湾の伝統芸能である歌仔戲を通じて表現しています。
森教授役の陳昭香さん/明華園天字戲戲團(左)、林さん役の郭春美さん/春美歌仔戲戲團(中)、白い胡蝶蘭の仙人1役の張秀琴さん/秀琴歌劇團(右)
特筆すべきは、南台湾の歌仔戲3大劇団である「秀琴歌劇團」、「春美歌仔戲戲團」、「明華園天字戲戲團」とのコラボ作品であるということです。
台湾語で「ゴアァヒ」と呼ばれ、「台湾オペラ」の別名も有する歌仔戲は、古くは小さな廟で披露され、品格のある言葉や故事を学ぶ場として親しまれてきました。うつくしい歌詞は全て台湾語で歌われるのが特徴で、宝塚歌劇のように女性が男性役を演じることも多いです。
さすが男役の御三方。かなり豪快でカッコイイ!
今回の阿婆蘭でも主要人物や蘭の花仙を演じた御三方は全員女性!
現代の南部歌仔戲の三大王と称されている面々で、別々の劇団に所属するスターたちが、ひとつの舞台で共演を果たしている点は、台湾のゴアァヒファンにとっても究極の舞台であることは間違いありません。
現に、オンラインで配られたチケットは配布開始から10分で配布終了したのだとか!そんなスターたちがリードする日台合作の台湾オペラに、期待値は高まるばかりです!
関係者の熱い想いをのせて、いざ公演!
「Aphrodite 阿婆蘭」はコロナがなければ本来、2020年5月に東京駅の駅前広場にて 大々的に公演される予定でした
前日に高雄にて開催された記者会見の席では、無事にこのフィナーレを迎えられた喜びが、関係者の皆さんからひしひしと伝わってきました。
全ての関係者の皆さんに感謝を伝えていた、「Taiwan NOW」総監督の林曼麗さん
今回は屋外での公演のため、雨天にならないか気がかりだったという「Taiwan NOW」総監督の林曼麗さんですが、「高雄が素晴らしい天気をプレゼントしてくれた」と喜びの声を聞かせてくれました。また、「今日に至るまで、誰一人として投げ出さずに協力し合えたことが、今回の実現に結びついた」とも語ってくれました。
実は林さん、この日晴れるようにと「素食(ベジタリアン料理)」を貫いたんです。その願いが叶って、当日はいいお天気!廟で願い事をして、ベジタリアン料理を食べるというのは台湾らしいですよね!
やなぎさんの思いを、うつくしい台湾語の歌詞で表現できるよう手掛けた、作詞・脚本の王友輝さん
脚本監修と作詞を手掛けた王友輝さんによると、劇中で歌われる歌詞は、やなぎさんの脚本を日本語から中国語へ翻訳し、それをもとに歌仔戲用の歌詞(台湾語による文語)に書換えたものなのだそうです。
一度歌詞が出来上がったら、台湾語から中国語に書き換え、更に日本語に翻訳してやなぎさんへ確認してもらう、という気の遠くなるようなやりとりが何度も行われていたのだそうです。細かいニュアンスについては、王さんとやなぎさんが直接英語で伝え合い、最終的な歌詞が完成したということです。
記者会見での集合写真。前列の複製アポーランちゃんたちが、とってもキュートでした!
未曾有の疫病に負けず、日台の往来が難しい中で密に打ち合わせを重ねてきた日台双方のアーティストや関係者、全ての人たちの努力と想いが詰まった作品。
言語の壁を越え、複雑な工程を経て届けられる熱い叫びを、いち早くキャッチしたい衝動に駆られました。
オープニング特別公演のフラフープ・パフォーマンス
19時になるとガジュマル広場では、オープニング特別公演として楊世豪さんのフラフープ・パフォーマンスが上演されました。楊さんが大きなフラフープを舞台上で自由に操る姿がとてもうつくしく、観ていて心地よかったです。上演中にも流れる、シンガーソングライター陳珊妮のメロウな楽曲「成為一個厲害的普通人(非凡な普通の人に)」と出合い、人生について改めて考えるようになったという楊さん。自身が体験してきた成長過程を深く表現してくれました。世界進出も果たしているという今回の楊さんのパフォーマンスを機に、フラフープ・パフォーマンスの世界をもう少し覗いてみたくなりました。
写真で物語を予習してみましょう!
そしていよいよ!お待ちかねのアート・プロジェクト「Taiwan NOW」を締めくくる演題 「Aphrodite 阿婆蘭」がスタートです。
プロローグでは、台湾の離島にある幽境(蘭嶼)で密かに咲く多種多様な蘭たちが、そこで暮らす人間と仲良く共存している様子が歌われています。
そこへ、陳昭香さんが演じる森教授と、郭春美さんが演じる林さんが迷い込み、中でもひときわうつくしい、白い胡蝶蘭「阿婆蘭」と出合い、物語はは動き出す……というのが第一幕。
2人が阿婆蘭と出合います
第二幕では、林さんの手によって幽境では雑草としか見られてなかった阿婆蘭を、白い蝶のようにDNAを改変。DNAを改変した真っ白い蘭の花は海を渡り、アメリカで高い評価を得るようになります。そんな阿婆蘭の変化と、金儲け目当ての外国人によって摘まれ、幽境から阿婆蘭が消滅してしまうことを心配する森さんの様子が表現されています。
白い胡蝶蘭の花仙1が「白蘭幽境 神秘のことわりの中にあり」と訴える場面があるのですが、ナビはこの言葉に今回の演目の真意を感じました。雑草に埋もれた日々が十分に幸せだった阿婆蘭たちの嘆きが、とても心に響きました。
白い蘭の花仙1を演じる張秀琴さん
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白い蘭の花仙2役の莊金梅さんは白い蘭の乗り物に乗っていますよ~!
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金儲けのために蘭の量産をはじめる蘭商人
林さんの研究室に蘭商人がやってきて、金儲けのために阿婆蘭の大量生産を提案する第三幕。阿婆蘭の遺伝子はコピーされ続け、複製蘭たちが量産される一方、野生蘭は幸せだった頃の思い出が薄れてゆくのを恐れ、マナに幽境の里で歌っていた歌を聴かせて欲しいと頼みます。しかし初心を忘れてしまったマナもまた、幽境の里で蘭たちと歌った歌が思い出せなくなっていました。
最終幕では、自分達の過ちに気がついた林さんとマナが、白い蘭の花仙2を幽境の里へ連れ帰ります。そこには、白い蘭の花仙1と共に懐かしい歌を歌う森さんの姿が。林さんは原生の蘭を取り戻すことに一生を捧げることを誓い、フィナーレを迎えます。
これまでの伝統的な歌仔戲とは違った新感覚の「Aphrodite 阿婆蘭」は、視覚と聴覚を通じて「本当の自分」、「本当に大切なもの」、「本来あるべき姿」について投げかけてくれた気がします。
南部歌仔戲の三大王
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野生蘭たちも揃い、鮮やかなエンディング
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日台合作のこの素晴らしい演目が、この先も長く語り継がれることを願うナビです。
心に響く歌声とストーリーを、ぜひ日本語字幕付きでお楽しみください!
ダイジェスト動画を日本語字幕付きでご覧ください
以上、劇中に流れていた曲を時折口ずさんでしまう台北ナビがお届けしました。
上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。
記事登録日:2022-01-07