台湾社会の闇を描いた映画2作品が日本でお目見え!監督の莊景燊(ジャン・ジンシェン)にインタビュー

夫婦二人三脚で話題作を次々世に送り出す!注目必至の社会派監督

Ⓒ巴萬

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こんにちは、台北ナビです。

日本でも翻訳版が発売中の、台湾人気コミックを原作としたご当地ドラマ「神之郷」が高視聴率で最終回を迎えるなど、昨今台湾で注目を浴びる期待の監督、莊景燊(ジャン・ジンシェン)さん。この秋、彼の2作品『よい子の殺⼈犯』(原題:最乖巧的殺人犯)、『HIGH FLASH 引⽕点』(原題:引爆點)のDVDが日本発売されるにあたり、ナビは莊景燊監督にインタビューさせていただく機会をキャッチ!

新型コロナウイルス感染拡大の影響で警戒レベル3級が敷かれる中(注:取材当時)オンライン・インタビューに応えてくれました!

『よい子の殺⼈犯』で主演した黃河(ホアン・ハー)さんのインタビュー内容は以下リンクよりご覧ください。

台湾社会の暗部にフォーカスした作品で話題に

HIGH FLASH 引⽕点』は、環境汚染に苦しむ⾼雄の⼩さな漁村で、焼身自殺を遂げたと見られる男性を乗せた⼀艘の⼩⾈が港へ向かってくるところから始まります。

法医学者が遺体を解剖すると、彼の⾝体には多くの疑問点が見つかり、調べていくうちに驚くべき真相が露呈していくという物語です。環境汚染や企業と役人の癒着など、リアリティーのある社会派ミステリーとして、台湾公開時も話題になりました。主演キャストは、⼆年連続で金鐘奨受賞と台北電影奨の主演男優賞を受賞するなど台湾映画界きっての人気俳優呉慷仁(ウー・カンレン)さんと、『ギャングだってオスカー狙いますが、何か?』(原題:江湖無難事)で、台北電影節の助演女優賞を獲得した姚以緹(ヤオ・イーティー)さん。二人の迫真の演技がピークに達し、複雑に絡み合った事件の真相が解き明かされる様は圧巻です。

一方『よい子の殺⼈犯』は、社会になじめない繊細な⻘年が追い込まれていく姿が、痛々しいリアリティーをもって描かれています。2019年金馬獎では、美術奨とデザイン奨にノミネートされ注目されました。

HIGH FLASH 引⽕点』と『よい子の殺⼈犯』両作品の監督である莊景燊さんのインタビューをお届けします。

脚本家の妻とは、お互い足りないところを補う補完関係

−−両作品の脚本はいずれも妻の王莉雯(ワン・リーウェン)さんがご担当されています。公私ともに大事なパートナーである彼女との共同作業は、どのようにされていますか。

莊景燊:大抵一つのプロジェクトが終わると、次の作品のブレストに入ります。お互いに5個ずつテーマを出し合い、合計10個の案にそれぞれ10点満点で点数をつけます。その中で一番高得点だったものを採用するんです。制作の過程でけんかは日常茶飯事ですが、やはりお互いの共通認識があるほうが争いを減らせますからね。特にキャストについて揉めることが多いですが、できるだけ理性的に口論するようにしています。作品をよりよくするためには、意見のぶつけ合いは必須ですが、夫婦関係にできるだけ影響しないようにしています(笑)。
ⒸAcross Films Inc.

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−−お二人のうち、高得点が多いのはどなたですか。

莊景燊:妻です。妻を尊重しているので(笑)。『よい子の殺⼈犯』、『HIGH FLASH 引⽕点』はどちらも彼女の案でした。私の案はまた次の機会にと考えています。

−−では意見が衝突したとき、譲歩されることも多いですか。

莊景燊:私たちの制作スタイルは、テーマを決めたら先に登場人物を作り込み、それからストーリーのシノプシスを一緒に考えますが、脚本はまず妻が書きます。二人一緒にPCに向かうと争いが多くなるので、妻が書き終えてからディスカッションするのが好きですね。私たちはお互いの足りないところを補い合える補完関係だと思います。必ずしも私が望んでいたものでなくても、自分は考えもしなかったいいアイデアを出せるのが彼女の長所です。ですから私はそのアイデアにさらに肉付けし、補強していいものに仕上げることが多いですね。
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−−『HIGH FLASH 引⽕点』は、環境汚染と大企業の隠蔽行為という深刻なテーマを扱っていますが、この映画を撮られるきっかけは何でしたか。

莊景燊:2010年にネットで見たニュースです。中国のある女性が市場で買った豚肉を、寒い時期だったため冷蔵庫に入れずにテーブルの上に置いておいたところ光ったのを見た。発光の原因は環境汚染が原因ではないかという内容でした。環境問題は、中国だけでなく台湾を含めた世界中の大きな問題ですし、豚肉にあったのなら、もしかして人にもありえるんじゃないかと考えたのが出発点です。
 
−−法医学者など、一般的にはあまり知られていない職業の主人公を描くにあたっては、どのような準備をされましたか。

莊景燊:脚本を執筆する時点から非常に苦労しました。法医学者だけでなく検察官もまったく専門外だったので、最初に友人を通してそれぞれの専門家を紹介してもらい、仕事内容の詳細をヒアリングしました。その内容がまたとても複雑で、下調べに長い時間がかかりましたが、それを脚本に落とし込む作業もまた大変でしたね。結局、専門家の方には顧問として撮影現場にも足を運んでもらい、ディティールの指導を受けました。
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−−劇中、抗議の焼身自殺をしたことで英雄になった民間人が登場しますね。台湾ではそのようなことが実際にありえますか。
莊景燊:ええ、ありえます。台湾の民主化の過程では、たくさんの抗議活動がありました。理想の政治の実現のためには、多かれ少なかれ自己を犠牲にしたこともあったでしょう。台湾人の性格上、このような行動が正当化される合理的な背景があると思います。こういう(理不尽な)ことに直面した時、台湾人は時に強い気概を見せます。環境問題も同様で、多くの人が環境汚染に強い関心を持ち、地方の人々の生活を抑圧する巨大財閥に反対しています。しかし大抵はその問題を解決することができないままです。そこで私たちは、この問題を前面に押し出すために、より極端にドラマチックな手法で表現しようと思いました。映画だからこそ、ドラマチックな緊張感でもって、人々に与える感覚を増幅したかったのです。

創作の出発点は、親戚に起きた不幸な出来事

Ⓒ2019 ANZE PICTURES Co. , Ltd. ALL RIGHTS RESERVED

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−−『よい子の殺⼈犯』は社会とうまく折り合いがつけられないアニメオタクの青年が、失恋や家族の死によって抑圧された感情を爆発させる、やるせなさが滲む作品です。劇中には「ボビッター」という架空のアニメキャラが登場しますが、具体的なモデルはありますか。

莊景燊:実は、日本のアニメが大好きだった親戚が亡くなったことが本作の出発点です。彼は、家族と一つ屋根の下に住んでいたのに、自室で亡くなって数日経ってからやっと発見されました。どうしてそんなことになったのか、妻とともにとてもつらい思いをしたことが、自分の世界に引きこもるアニメ好きの主人公の物語を作ることになった発端です。最初はその親戚が好きだったピカチュウを想定していたのですが、版権の問題で使用できなかったので、ボビッターという架空のアニメを作りました。イメージとあまり合わなくて悲惨になってしまいましたが(笑)。

−−家に引きこもるニートの増加は、日本でも社会問題になっていますが、台湾にもそのような状況はありますか。

莊景燊:あります。その親戚もそうでした。彼は体が不自由ということもあり、50歳を過ぎて仕事がなく、阿南のように1日中家に引きこもっていました。当初は台湾のニートに関してよく知っているわけではありませんでしたが、脚本を組み立てる過程で、台湾にも確かに自分の世界に引きこもっている人たちがいると知りました。もちろん全員が阿南と同じではないですし、また身体的に問題があるわけでもなく、健康で単にアニメや漫画が好きという人もいます。
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−−阿南を演じた黃河さんへは、どのような要求をされましたか。

莊景燊:黄河さんを起用できてラッキーでした。彼は元々ゲームやアニメが好きで、ある意味オタクな面があると自分で言っていましたので(笑)。例えば美術を専攻していた黄河さんは、一人で静かに絵を書くことが好きで、そういうスタイルが阿南にとても近かった。彼とは古くからの知り合いで、ずっと一緒に仕事したいと思っていましたが、そんな一面があるとは知らず、オーディションの際、初めて彼がこの役にとても合うことがわかったのです。阿南というキャラをさらに作り込むために彼とよく話し合いましたが、阿南の歩く様子や、頭や背を掻いたりという動きの癖は黄河さん自身が工夫したものです。
−−黄河さんとの撮影の中で、一番印象に残っていることは何ですか。

莊景燊:撮影前、黄河さんはいつも阿南の部屋に入って、小物を触ったり、自分の取りやすい場所に動かしたりして、その場に溶け込むようにしていました。役の環境や感情に溶け込むためのこの一連の習慣は、特にプロ意識が高いと感じました。
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−−最後に、監督が個人的にお薦めする観光スポットを紹介してもらえますか。

莊景燊:感染が収束してからの話ですよね(笑)。今は旅行できませんが、コロナ収束後に日本の皆さんが台湾に来てくださることを歓迎します。でも台北や高雄のような大都市だけでなく、台湾には地方の小さな街や村にもたくさんの魅力的な観光地があります。例えば、最近台湾で放送された私のドラマ「神之郷」は、桃園大渓の宗教文化を紹介しています。そのように台湾には各地ごとに豊かな地方文化がありますし、地方の人々は人情味に溢れた人も多く、日本の皆さんには特にフレンドリーだと思います。ですからもし機会があれば、ぜひ台湾各地に足を運んでみてください。

−−お好きな台湾美食も教えていただけますか。

莊景燊:私は新竹出身なので、地元のビーフンが大好きです。ビーフンは子どものころから自分に深く根差した飲食文化です。新竹の有名な観光スポットである城隍廟の中には、ビーフンだけでなく肉圓や四神湯なども売っているお店がたくさんあります。

にこやかな笑顔で、一つ一つの質問に丁寧に応えてくださった荘景燊。内容の濃い二作品なので、もっとお聞きしたいことあったのが心残りですが、お話を伺ってもう一度作品を見たくなりました。台湾という多面体のダークサイドを描いたこの二作品、皆さんにもご興味をお持ちいただけたら嬉しいです。

以上、台北ナビ(二瓶里美)がお届けしました。

「HIGH FLASH 引⽕点」商品情報

ⒸAcross Films Inc.

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【発売日】
2021年10⽉6⽇(⽔)

【価格】
4,180円(本体価格+税10%)

【特典】
映像特典
・莊景燊(ジャン・ジンシェン)監督オンラインインタビュー
・スタッフ、キャストメッセージ
・メイキング
・オリジナル予告編
・オリジナルブックレット

※デザイン・特典及び仕様はすべて予定です。発売時には予告無く変更になっていることがあります。
※レンタル同日リリース

発売元:株式会社ディメンション
発売協力:ピカンテサーカス、アジアンパラダイス
販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング

(C)Across Films Inc.

「よい子の殺⼈犯」商品情報

Ⓒ2019 ANZE PICTURES Co. , Ltd. ALL RIGHTS RESERVED

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【発売日】
2021年9月3日(金)

【価格】
4,180円(本体価格+税10%)

【特典】
映像特典
・王真琳 (ワン・チェンリン) オンラインインタビュー
・莊景燊 (ジャン・ジンシェン)監督メッセージ
・黃河 (ホアン・ハー)メッセージ
・アニメ「最強のボビッター」テーマ曲カラオケ
・台湾版オリジナル劇場予告編
・オリジナルブックレット

※商品の仕様は変更となる可能性がございます
※レンタル同日リリース

発売元:株式会社ディメンション
発売協力:株式会社ピカンテサーカス、アジアンパラダイス
販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング

(C)2019 ANZE PICTURES Co. , Ltd. ALL RIGHTS RESERVED

上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。

記事登録日:2021-09-09

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