アートが盛んな台湾。台中にある國立臺灣美術館では、アジアの先鋭アーティストによる「2019亞洲藝術雙年展」を開催中!
國立臺灣美術館
こんにちは、台北ナビです。
日本でも各地で開かれている、ビエンナーレやトリエンナーレ。2020年2月9日まで、台中にある國立臺灣美術館では「2019亞洲藝術雙年展」(2019アジアアートビエンナーレ)が開かれています。ビエンナーレとは、2年に1回開かれる展覧会という意味で、この展覧会では台湾、日本、韓国、中国、タイ、インドネシア、シンガポール等から31人(組)が出品しています。
テーマは「來自山與海的異人」
会場入口
日本語にすると「山や海から来た、初めて会う見知らぬ人たち」という意味です。これは日本人の民俗学者、折口信夫(1887~1953)の「稀人(まれびと)」(簡単に言うと、普段接している人たちではなく、遠くにいる人がもたらすものは、何かの贈り物やすばらしい知恵であるという考え方)を元にしています。
日本でも展覧会をしたことがある台湾の許家維(シュウ・ジャウェイ)とシンガポールを拠点にする何子彦(ホー・ツーニェン)という、2人のアーティストがキュレーション(展覧会企画)をしています。
日本では見られない「社会問題を取り込んだ作品」ばかり
打開 - 當代藝術工作站 X LIFEPATCH《Deposits of The Island》2019年, site-specific installation, workshop and activities. Dimensions variable, Courtesy of the artist
日本と大きく異なるのは、台湾(だけでなく世界中)の展覧会では、社会問題を取り上げて、「なぜ私たちにはその問題が起こるのだろうか」とか「作品を見て、私たちはその問題をどう考えるべきか」という提起をしています。作品の形や色だけ見ても、アーティストの意図や作品の意味は分かりません。
例えば、展示室と展示室をつなぐ空間には、いろいろな物が床やソファの上に置かれた「作品」があります。ここにある作品説明(キャプション)を見てみましょう。
打開 - 當代藝術工作站 X LIFEPATCHの展示作品キャプション
一つ一つ置かれた物は面白そうで魅力的なのです。しかしどれが「作品」かというと、そういう物とは限りません。
空間の部分部分に作品タイトルが付けられていますが、おそらく空間全体も作品なのです。台湾とインドネシアのアーティストと、実に多くのワークショップの参加者によって、この空間はつくられました。国境や移民のような、多様化する社会を形にした作品です。
キャプション/Roslisham ISMAIL (a.k.a ISE)《ChronoLOGICal》2018, mixed media installation with video, drawing and participatory object. Varying dimensions Courtesy of the artist’s estate
社会問題と言っても、内容は多岐にわたります。例えばこの作品《ChronoLOGICal》は、アーティストの先祖であろうマレーシア半島のクランタン王国の歴史を元にした壮大なインスタレーションです。アーティストは、地域の長老や歴史家、友人などから聞き、ミニチュアの模型、アニメーション、手描きの絵や文字を使って、地理、貿易、コミュニティなどを表現しています。
一人の作曲家から歴史を再考察する作品
王虹凱 《This is no country music》2019年, workshop, multi-media installation. Dimensions variable, Courtesy of the Artist
ナビたち日本人にとって、台湾やアジアの歴史はあまり得意ではありません。
王虹凱は、1930~80年代に活躍した江文也という作曲家が残した歌曲のメロディや歌詞を元に、3つのスクリーンを使った映像作品にしました。この作品を通して、台湾、日本、中国の歴史に気付かされることでしょう。
地域の問題は世界共通の問題だと気付かされる
地域の問題は世界共通の問題だと気付かされる
ミャンマーのアーティストのサワンワンセ・ヤーンウェは、自分の家族や地域の歴史や関係性を「見える化」するような絵画をたくさん展示しています。
この画像にある図だけでなく、壁にはアジア各地で起こっている事件や問題を絵画にしていて、アーティストが住む小さな町の身近な問題は、もはや世界的な話題であったり、共通性があることを教えてくれます。
大型インスタレーションに詰まった台湾の歴史と問題点
丁昶文 《Virgin Land》 2019年, Tempered glass floor, ultraviolet light tube, neon lamp, raw material of cinchona tree, tonic water, multi-channel video. Dimensions variable, Courtesy of the artist
丁昶文は、日本統治時代の台湾で研究された、蚊を媒介する疫病とその対策として植えられた木がテーマ。
展示会場は、木の成分から生まれる天然の蛍光剤をイメージした青い空間で包まれ、同じく木に含まれる成分から生まれたトニックウォーター、つまりジントニックが提供されるようなバーカウンターがあります。円形の壁には、疫病にうなされる男性や研究者などが映し出されています。大きな展示室にぎゅっと歴史が詰まり、世界的に蔓延するマラリアに関して気付かされるような、とても迫力がある作品です。
耳だけで楽しむ作品もある
黄思農/再拒劇團《The First Dream》2019年, sound, audio devices, 40min, Courtesy of the artist
このビエンナーレには「聞くだけ」の作品があります。言語の壁はありますが、この作品はほとんど英語で物語が進みます。受付で借りてみてください。
こうした作品は、このビエンナーレのために制作されたものです。戦争や国際問題のような社会的な内容であっても、台湾(だけでなく世界中)の展覧会では、特に問題視されることなく、むしろ鑑賞者にその内容を考えさせることを促すものとして受け入れられています。
ビエンナーレ会場のあちこちに、作品の内容を補足するような資料が置かれていました。アジアにおける政治や歴史、生態系や環境問題などに関する資料です。もはやアートはいろいろなジャンルと結び付いて、鑑賞者に考えることをさせているのです。
会場配布のガイドブック
会場に置かれたガイドブック(無料!)のデザインも面白いです。冊子になっていて、表紙が画像イメージに合わせてカットされています。バイリンガルなので、分かりやすいです。
日本の展覧会で見ることができる作品は、具体的に何が表現されているか分かる絵画や彫刻、インスタレーションばかり。その目を持って、この「2019亞洲藝術雙年展」に行くと、チンプンカンプンで、表現の不自由さしか感じないかもしれません。
いまアートは「私たちが抱える問題点」を表現した作品が主流です。アジアを拠点に世界的に活躍するアーティストばかり集めたこの展覧会で、アーティストたちは過去や未来に行き来しながら、自分の身近な話からアジア全体や世界中の多様な問題点を取り上げています。だから、素材や手法に注目したり、理論や理屈で分かろうとする鑑賞法は避けましょう。意味が分からなくても、まずは鑑賞者の目に作品を入れてください。ぐるっと頭や身体を通して、感じたり、考えながら、すべてを見終わった時、身体のどこかでこれまでのモノの見方が変わる「何か」を得ているはずです!
以上、台北ナビ(藤田千彩)がお届けしました。
「2019亞洲藝術雙年展」國立臺灣美術館
住所:台中市西區五權西路一段2號
電話:(04)2372-3552
時間:10:00~18:00(金曜日は~20:00)
休み:月曜日
高鉄台中駅から159番バス(台中公園行)で土庫停車場下車、徒歩約6分で到着