「日曜日の散歩者-わすれられた台湾詩人たち-」8月より日本全国で順次公開!

台湾発の社会派文芸映画です


こんにちは。台北ナビです。

2016年の台湾のアカデミー賞「ゴールデン・ホースアワード(金馬奨)」で最優秀ドキュメンタリー奨を受賞した「日曜日の散歩者‐わすれられた台湾詩人たち‐」が8月よりシアター・イメージフォーラムなど全国で順次公開されることが決まりました!

今回は、同作の魅力をたっぷりお伝えしちゃいます。

解説

 
1930年代、日本による植民地支配が40年近く経過した、日本統治期の台湾。地方都市の台南で、日本語で詩を創作し、新しい台湾文学を創りだそうとした、モダニズム詩人団体がありました。その名は「風車詩社(ふうしゃししゃ)」。

植民地支配下で日本語教育を受け、日本留学をしたエリートたちが、日本近代詩の先駆者であり世界的評価を得ていたモダニスト西脇順三郎をはじめとする、日本文学者たちとの交流から、日本文学を通してジャン・コクトーなどの西洋モダニズム文学に触れる中で、若きシュルレアリスト(超現実主義者)たちとしての情熱を育みました。

しかし、日本語で新しい台湾文学を生み出そうとした彼らは、戦後の二二八事件、白色テロなど、日本語が禁じられた中で迫害を受けていきます。植民地支配、言論弾圧という大きな時代の渦の中に埋もれていった創作者たちの情熱は、現代を生きる私たちに、何を問いかけてくるのでしょうか。

台湾のアカデミー賞、ゴールデン・ホース・アワード(金馬奨)最優秀ドキュメント賞受賞!


近年、「懐日」ブームの台湾では、『KANO 1931海の向こうの甲子園』『湾生回家』など、日本統治時代に関連する映画が多く作られています。黃亞歷監督の長編初監督作品となる本作も、台湾のアカデミー賞と言われる、第53回金馬奨最優秀ドキュメンタリー賞を受賞した注目作です。黄監督は林永修(修二)の詩を通して、台湾でも忘れられた存在であった「風車詩社」を知り、日本統治期の台湾にこのような創作をしていた詩人たちがいたことに衝撃を受けたといいます。元メンバーの家族、研究者など関係者へのインタビュー、資料調査など、約3年をかけて製作された本作は、文学的視点からも大変貴重な作品となっているそうです。

本作は、詩の朗読、過去の写真やシュルレアリスム芸術作品を多用した貴重な資料映像、前衛的な手法の再現パートの、3つの要素で構成されています。台湾でも歴史の波に埋もれ、忘却の彼方に置き去りにされていたモダニズム詩人団体「風車詩社」の文学を通して、当時の台湾と日本の関係や、政治弾圧という社会的な側面を浮かび上がらせることに成功しました。

日本語で創作する事への葛藤を抱きながらも、ジャン・コクトーや西洋モダニズム文学への憧れを、美しく軽やかな日本語で昇華させた文学作品は、純粋なまでの芸術性と語感を持って、80年以上の時を経ても色褪せない独自のものとして私たちを魅了することでしょう。

物語

 
1930年代、日本による植民地支配が40年近く経過した台湾は、安定した同化の段階に至っていました。この時期に台湾に登場したのが、モダニズム詩人の団体としては最も早い、「風車詩社」です。日本の文学者たちとの交流や、留学先の日本で最先端の文化や芸術に触れる中、西洋モダニズム文学の波は、台湾の若き詩人たちに大きな衝撃をもたらしました。

マルセル・プルースト、ジャン・コクトーなど、西洋モダニズム文学に対し大きな憧れを抱いた彼らは、仕事が休みの日曜日になると、古都・台南を散歩しながら、シュルレアリスム詩について語り合いました。母国語ではない日本語で詩作する事への葛藤と哀しみを抱きつつ、彼らは自分たちの台湾文学を築こうと、同人雑誌『風車』を創刊したのです。

しかし植民地支配下の台湾ではプロレタリア文学が主流で、彼らのシュルレアリスム詩は理解されることはなく、風車詩社は1年半で活動を終えてしまいます。1937年には盧溝橋事件をきっかけに日中戦争が勃発。日本が敗戦すると、台湾は蒋介石の中国国民党による独裁時代へ移行します。1947年の二二八事件では、風車詩社の主要メンバーであった楊熾昌と張良典が無実の罪で入獄させられ、1952年には白色テロによって李張瑞が銃殺されます。

日本語で自分たちの新しい台湾文学を築こうとした、シュルレアリスム詩人たちの葛藤と、その時代の日本人文学者たちとの交流、そして西洋モダニズム文学のもたらした衝撃が、貴重な資料映像と、彼らの詩と共に映し出されていきます。

風車詩社とその背景


20世紀初頭のヨーロッパで始まった未来派、表現主義、ダダイズム、構成主義、シュルレアリスムなどの新しい芸術思潮は、1920年代になると日本へ紹介されました。堀口大学によってジャン・コクトーが翻訳され、当時の台湾の文学者たちは、日本語に訳された書籍を通して、西洋モダニズム文学への憧れを抱いていきました。

台湾新文学は1920年代初期に、政治、社会運動の一環として出発。初期の文学は、中国の文学革命に触発されて始まった、中国語の文体の転換を中心とする、中国語口語文の運動でした。30年代に入ると、政治運動が激しい弾圧を受けほぼ壊滅した一方で、文学運動は隆盛期を迎えます。34年には「台湾文芸」が創刊、翌35年には「台湾新文学」が創刊され、この二大雑誌が文壇に並立します。両誌ともに中国語、日本語を併用し、小説、詩、批評、散文などを掲載する総合文芸雑誌でした。リアリズムが主流を占める中で、モダニズム文学を目指した数少ない詩人たちの集まりが、台湾の地方都市・台南で、シュルレアリスムを掲げて1933年に設立された、「風車詩社」でした。

風車詩社を設立したのは、楊熾昌、李張瑞、林永修、張良典、及び、台湾在住の日本人・戸田房子、岸麗子、尚梶(島元)鉄平でした。しかし雑誌『風車』は1934年9月に第4号が発刊された後に廃刊となり、風車詩社も解散してしまいます。

当時、日本では小林多喜二、中野重治などのプロレタリア文学、西脇順三郎、瀧口修造、北園克衛、堀辰雄などのモダニズム文学の両方が発展していました。これに対し、日本統治下にあった台湾では、プロレタリア文学のみが盛んになっていました。「近代化」の名のもとに進められた、植民地統治という現実を前に、直接的な描写をしないモダニズム文学は、当時の台湾文壇では受け入れ難いものだったのです。

また、日本統治下の植民地であった当時の台湾において、被支配者である彼らが、支配者の言語、「日本語」によって自分たちの文学を創造しなくてはならない事は、困難が伴う切実な問題でもありました。

主要人物紹介


楊熾昌(よう・ししょう) / 1908-94年

筆名に水蔭萍。詩人・新聞記者。台湾の文壇にモダニズムを導入した先駆者。台南市に生まれ、台南第二中学校(旧制、現在の台南一中)を卒業後、東京の文化学院に留学。

西洋のモダニズム文学が流行する時代の空気にのめり込み、1933年3月、李張瑞や林永修、張良典らと「風車詩社」を結成し、同人雑誌『風車』を刊行。1935年12月から『台湾日日新報』記者。

1947年二二八事件の際には無実の罪で入獄。

李張瑞(り・ちょうずい) / 1911-52年

筆名に利野蒼。台南県関廟出身。関廟公学校卒業後、家族と車路墘製糖工場で生活。楊熾昌とは台南第二中学校の友人で、のち日本に留学し、農業大学を卒業。

数多くの西洋文学などに触れ、のちに嘉南大圳(だいしゅう)水利組合に勤務。

戦後は国民党の白色テロに遭い、政治事件に関与したとの無実の罪にて、判決書が家族のもとに届く前に銃殺され死亡。

林永修(りん・えいしゅう) / 1914-44年

筆名に林修二、南山修。台南県麻豆鎮出身。台南第一中学校在学中に文学の創作活動を開始。のちに慶應義塾大学英文科に進学。

創作スタイルは日本の「四季」派の詩風に近く、「物に寄せて思いを陳(の)べる」、つまり内面の感情(孤独感、喪失感など)を物に託して語るもので、追憶の感情を捉えて詩にすることを好み、象徴主義の感覚(色彩、香り、聴覚)を用いて、心の奥底の感受性や精神的な気分を表現。

張良典(ちょう・りょうてん) / 1915-2014年

筆名に丘英二、椿翠葉。台南県仁徳郷出身。台南第一中学校在学中に林永修と知り合い、卒業後は、台湾総督府台北医科専門学校に入学。

医専在学中に「風車詩社」が結成され、林永修に誘われて加入。医専の仲間十数名と文学雑誌『杏林』を一号のみ共同編集。

戦後二二八事件に際し、数か月の入獄を経験。その後台南市の大同路に「良典医院」を開業。

監督プロフィール



黃亞歷 Huang Ya-Li/ホアン・ヤーリー

映像と音の関連性、およびそれらの可能性を広げることに関心を持つ台湾のインディペンデント映画作家。近年、日本植民地時代の台湾に関するドキュメンタリーを扱う。ドキュメンタリーのリアリティー解釈においては、歴史的な調査と検証を重視。台湾とアジア及び世界との関係を作品に投影することをテーマに制作。長編映画デビュー作となる本作で、台湾のアカデミー賞といわれる金馬奨最優秀ドキュメンタリー賞を受賞。

フィルモグラフィー
2010 The Unnamed(35 mm short film)
2008 The Pursuit of What Was(35 mm short film)
2015 Le Moulin

作品データ


監督:黃亞歷(ホアン・ヤーリー)

プロデューサー:黃亞歷(ホアン・ヤーリー)、張紋佩(チャン・ウェンペイ)、張明浩(チャン・ミンハオ)

撮影:黃亞歷(ホアン・ヤーリー)、蔡維隆(ツァイ・ウェイロン) 

出演:梁俊文(リァン・チュンウェン)、李銘偉(リー・ミンウェイ)、沈君石(イアン・シェン)、沈華良(イーブン・シェン)、何裕天(デヴン・ホー)

原題:『日曜日式散歩者』 / 制作:本木工作室 、目宿媒體 / 配給:ダゲレオ出版  / 配給協力/宣伝:太秦監修:大東和重 / 協賛:株式会社遊茶 / 後援:台北駐日経済文化代表処、台湾新聞社

©2015 Roots Fims Fisfisa Media All Rights Reserved.  2015|台湾|カラー|DCP|5.1ch|162分公式サイト:www.sunpoday.com

上記の記事は取材時点の情報を元に作成しています。スポット(お店)の都合や現地事情により、現在とは記事の内容が異なる可能性がありますので、ご了承ください。

記事登録日:2017-06-21

ページTOPへ▲

その他の記事を見る